「今日からお前は、この『サレ』と組むことになった。詳しい資料は後で渡すから目を通しておくように。ヒューマだがフォルス能力は相当のものだ。うまくやれ。」 こう言われて、俺は『サレ』と初めて顔を合わせた。 真新しい濃紺の服を着た、随分と小奇麗な身なりの、やけに若い男が目の前に立っていた。 |
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このとき俺は、『ヒューマ』と思うよりも何故か、こいつを『ガキ』だと思った。 聞けば今年17になるという。 そのガキは「よろしく。」とだけ言った。 研修を卒業して配属されたばかりの新入りか。 先輩のこっちに頭くらい下げて挨拶するかと思いきや、その変なガキ『サレ』は、無表情に、こっちに興味が無いとばかりの顔をして俺の前に立っていた。 俺はこの年、訓練部隊詰めから実戦部隊に異動になった。 単調な訓練補助とか、果ては研修の教官まがいのことまでやらなければならない退屈な「ぬるま湯」仕事から解放されて、久々に自分のフォルス能力を思う存分発揮できる部署に就けたかと、それなりに気分が奮い立っていたところだった。 実戦部隊は、原則、複数で行動する決まりになっている。 これは、フォルス能力の特殊性によるところが大きい。 フォルスはヒトの精神面に多く依存するから、常に暴走の危険と紙一重だ。 だから常に他の者を傍につかせ、互いに精神面での抑止力にするためだった。 俺は『王の盾』での経験も長い方だし、実戦の経験もあるから、どうせ他の者と組むにしても、責任者的立場になるんであろうとは思っていた。 それを置いても、久々の実戦部隊で、どんな猛者と組めるかと、それなりに楽しみにしていた。 その矢先に俺のパートナーとして紹介されたのがこの変なガキだった。 なんでヒューマがここに居るんだ!。 それにひ弱そうなガキとくれば、ことあるごとに責任は全部俺に押し付けられるんだろう。 おまけに後から資料を見て知ったが、このガキは、研修をトップの成績で修了したという、いわば俺の嫌いな優等生なのだ。 『王の盾』始まって以来のヒューマ能力者だそうだが、馴れ合いは嫌だし、実戦部隊なら、単にフォルスがあればいいというものではない。 本来体力的にガジュマに到底及ばないヒューマの上に女のように細っこいこいつをいきなりここに放り込むのは、いくらなんでも無理があるんじゃないのか?。 死ぬぞ。絶対すぐ死ぬぞ。 こういうのは優等生らしく「ぬるま湯」訓練部隊で教官任務にでも就けばいいんじゃないのか。 学科トップで頭がいいなら文官にするのもいい。 俺はそう上にかけあったが、取り合ってはもらえない。 それならせめて、せいぜいこっちの足を引っ張らないようにしてもらおうか。 保護者代わりをやらされたのではこっちの神経だってもたないんだよ。 だいいち俺はヒューマが嫌いなんだ。 ヒューマは先天的に知能の面において、ガジュマより優れているというだけで、人を騙し、平気で嘘をつく。都合が悪くなるとすぐにごまかすくせに要領で上手く世渡りする。 俺はそういうヒューマの姑息さが嫌いなんだ。 ガジュマとヒューマは、元々仲が悪くなるように世の中含めてそうなっているんだ。 「おい、お前。」 いっそ脅しをかけてこいつから逃げ出すように仕向けようか。 そういう期待も込めて、声にかなり脅しをきかせたつもりだったが、サレは冷めた顔をして、少しも怖じもせずに見返してくる。 かなり上背のある俺から睨まれれば、大抵の相手は目をそらすはずなんだが。 案外肝が据わっているのかもしれない。 とにかくサレは、怖がる、ということをしなかった。 |
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それにしても。随分と肌が白いんだな。 顎の尖った感じの小さい顔。 額にかかる長い前髪は、サラサラとしていて、いかにも柔らかそうだ。 首も肩も腕も随分と華奢なもんだ。 俺がこいつくらいの歳の頃は、もっと違った形をしていたぞ。 猛々しさの欠片もない、やけに中性的な滑らかな曲線。 それはこいつがまだガキの部類に入るのだということの何よりの証明。 薄い唇。 鮮やかな青い瞳。 切れの長い眼に見事に長くそろった睫。 これで笑ったら、一体どんな顔になる?。 ヒューマ流で言うところの「綺麗」とは、こういうのを言うんだろうか。 |