『サレ』を連れて歩くとやたらと人目を引いた。 最初のうちこそ、それは『サレ』がガジュマ集団の中のヒューマだから、単に目立つせいだと思っていた。 だが段々とそういうことではないのだと。 さすがの俺も気づき出していて、日々それが俺を憂鬱にさせていた。 |
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正規軍の辺境駐屯地に行ったときに、俺の憂鬱ははっきりとした形になって現われた。 薄汚れた一般兵用の幕舎が並ぶ、埃っぽい駐屯地を横切って、簡単に案内された責任者の居る幕舎に向かう途中、周囲で小さなざわめきが起きていた。 「おい見ろよ。」 「随分と可愛いらしいのが、獣集団に混ざってるじゃないか。」 居並ぶ兵士達の中から、そういう声が聞こえてきた。 ろくにヒューマの顔の見分けがつかない俺ですら、『サレ』が一般の規格よりもいいのだと気づいたのだ。 ヒューマの野郎共から見たら、ガジュマの中に、たった一人浮いているサレがどう映るのか、考えるだに胸糞悪いことだった。 浮くにしてもせめてもう少し違う外見をしていれば。 例えば俺がそうだと気付かない程度の顔なりしていれば、こういうことにはならないんだろう。 「王の盾もまた、妙な趣向を取り入れたもんだ。」 「ガジュマ共はやることが露骨だ。こっちへの嫌がらせのつもりかね。」 連中からの下卑た野次、それに続いてどっと笑う声が聞こえた。 こっちに向けられるあからさまなからかいや、野次の鬱陶しさもさることながら、こういうとき俺は当のサレをどう扱えばいいのか分からなくなる。 「あれは例の『珍種』だろ。」 ふいに聞こえた訳知りげなその声に、俺は本気で「まずい」と思った。 |
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「何?。」 「あいつら、ぶっ殺しましょうか、って言ったんだよ。うるさいんだろ?。」 これが初めて聞いたサレのマトモな言葉だった。 「お、おい、待て待て!。そういうのは全部俺の役目だ!。」 俺は咄嗟にそう応えていた。 「フォルスってのはな、こういうときに使っちゃいけねえ。ただでさえ胸糞悪い。こういうのは後でろくなことにはならん。絶対。」 見た目で浮くのは仕方ないんだ。見ての通りなんだから。 だがこういうのは俺だって嫌なんだ。 「あー。要するに、お前は配属直後だろう。だから今日は大人しく見学だ。それにお前が暴れたら、俺の監督責任を問われるんだからな。」 「そう?。」 「いいか。こういうものには順序がある。これから会う責任者とやらに俺がちょっと脅しをかけるだけで9割方解決する。だからお前は今日は見るだけでいい。口出しも無しだ。…まああ、事前に俺の判断を仰いだことに関しては、良しとするがな。」 サレが曖昧に首をかしげた。 不思議とフォローすることが嫌でなかった。 「では一体どういうときフォルスを使ってもいいんでしょうか?。教官?。」 とって付けたように『教官』とか言うあたりがまるっきりガキそのものだと思った。 「…あー、それは…あれだ!。フォルスってものは、そもそも…だ、ヒトの精神の根底にある最も原始的なものが具現したものであり…。」 「あははははは、何それ!。」 サレが笑った。 「笑うな!。つまりだな!、頭に血が昇った状態で使うと止まらなくなっちまうってことだ!。」 フォルス能力故に自種族のヒューマからもはじき出される。 ガジュマにもヒューマにもなれない。だからこれは只の『サレ』なのだと言うしかない。 それが俺の出した答えならば、俺も只のトーマであればいい。 そうすれば俺たちはきっと上手くいく。 この理屈も俺達限定の、ここだけのことなんだろうがな。 |