『君主論(その5A)』



 


君主論に曰く。

君主は、獣の気性を適切に学ぶ必要がある。この場合、狐と獅子に学ぶことが適切である。
 獅子は策略の罠から身を守れないためであり、罠を見抜くという意味においては、狐でなければならないし、
狼のような外敵を圧倒するという意味においては獅子でなければならない。


 君主とは、あるときにおいては、獅子(力強さの側面)をもって、
周囲(主に外敵)を制圧する力を求められ、またあるときには、狐(英知、狡知)をもって
狡猾な敵に相対する知恵を求められる。

 要するに、君主が、自国の平和と繁栄を維持するために、
外敵の攻撃等の有事の際には武をもって自国を守る「力」が求められ、
 また、狡猾な敵の接近があったときには、臨機応変に、事態の打開、および
問題の解決にあたる「知恵」が求められる、というわけである。

 「力強さ」と「知恵」、これのどちらも欠けてはいけない。

 一見して当然のことを言っているようであるが、凡庸な君主には、
えてして上記のいずれか(あるいは両方)が欠けているものである。
 武力が欠ければ、ひとたび事が起きたときに自信をもって国を守れないから、
結局運まかせになり、知恵が欠ければ敵に騙され罠にはまり滅ぼされる。
 
 FF12の世界観で考えてみよう。
 なおFF12の本編で、誰が善玉として書かれているかについては、切り離して考えよう。
 実在の歴史において起きる争い事は、対向する複数の勢力が趨勢を競う現象であり、
そこには絶対悪、絶対善を論じる余地はないからである。
 絶対悪の定義がまかり通るのはショッカーの地獄の軍団までであり、当サイトは
15禁なので、当然卒業されているものとみなす。
 
話が逸れたな。

 上記の例でいくと、独自の政策・軍拡主義をもって帝国を繁栄させたソリドール家に、
歴史的政敵・元老院が接近し、失脚させようと、事実上の攻撃をしかけている。

 皇帝と言えど、元老院は自国の最高決議機関だから、外敵のように単純に
軍隊をもってこれを攻め滅ぼすことはできない。
 すなわち、このような狡猾な敵には、相応の「知恵」をもって対抗しなければならない。

 前回の(その4)でも述べたように、既に悪意をむき出しにする敵に対しては、
こうなった段階でいくら信義をもって対応しようと試みても無駄であり、
まさに「善」の仮面をかなぐり捨て、あえて「悪」を選択することが求められるのは言うまでもない。

 また、君主論に曰く。

君主が相手に対して、何かを説得するということは簡単に為しえるが、
説得されたままの状態に相手を繋ぎとめておくことが難しい。


 ソリドール家は、元々、元老院議員を構成していた政民の家柄であるが、
ある意味、他の議員たちを出し抜いて、皇帝の立場を手に入れた経緯がある。
 そしてその代償として、他の議員たちに「廃帝権」を与えて彼らを説き伏せ、
彼らと協力関係をもつに至っている。

 が、しかし、その後も軍部との結びつきを一層強め、独自の権力組織体を創り上げるソリドール家は、
元老院議員たちにとって、やはり面白くない存在ではある。
 よって、元老院議員たちは、当初の「説得された」状態に留まることをせず、
やがて皇帝への反駁を企てるようになり、終いには権原の全てをソリドールから奪うべく、
「ソリドール潰し」の機会を虎視眈々と狙っているのである。
具体的な攻撃として、ソリドール家の長男と次男は既に殺害されている。

 かかる事態に関し、君主論においては、
上記難しさとは、相手はよりよくなると信じて、進んで為政者を替えたがるものであり、
その信念をもって、武器を手にして立ち向かってくることである。

  と述べている。
 
元老院議員とて、何もアルケイディア帝国を劣化させようとしているのではない。
ソリドール家が皇位に就いている現在の状態よりも、
自分たち(議会)が政治の主導となった方が、良いだろうという「信念」をもっているから、
皇帝グラミス、そして特に軍部の人望厚い皇子ヴェインを失墜させ、
自分たちがその最高権力者の座に就こうとしているのだ。

 そしてこの場合、「武器」とは「廃帝権」であり、ヴェインの戦功にも難癖をつけ
失脚に追い込む「罠」である。

 これほどの「悪意」をむき出しにする敵にも、やはり確固たる信念があるからこそ、
説得によりこれを鎮めることは、不可能なのである。

 では、かかる、もはや説得不可能な事態に遭遇したとき、君主はどうするべきか。

 君主論に曰く。
早期に正しく、大弾圧を加えるしかない。
 また曰く。
彼らが言葉を聞かなくなったら、力でもって信じさせるように、策をとらなければならない。

 すなわち、信念をもって攻撃を仕掛ける、正真正銘の強敵の反抗は、可能な限り、
早期に、萌芽のうちに、潰さねばならない、と説いている。
 事が大きくなって、国全体を巻き込むような騒乱に発展する前に、
影響力の大きい部分を選別し、速やかにこれを叩く「知恵」と「迅速な行動力」が
求められるのであります。

 具体的な手段を早期にとることを怠れば、
騒ぎが大きくなり、敵がどうにも引っ込みがつかなくなった段階で
彼らを鎮める方策(はなはだ困難でおそろしく時間がかかる)を別に探さなければならず、
たいがいにおいて敵の譲歩をも期待するといった、いわば運任せなものになりがちであり、
極めて消極的な事態に陥るのである。

 そしてこのような君主の消極的な姿勢は、事後において威信を大きく失墜させ、
味方の離反をも招く最悪の結果となる。

 また君主論において、
危害というものは、ただ腕をこまねいて、目の前に来るのをまっていたのでは、
病膏肓に入って治療が間に合わなくなる。


と説いており、向かってくる敵を潰せないような君主は、もはや彼らのいいように滅びるしかなくなるのである。

 だが、かかる危機を脱したとき、君主論においては、
彼らの反抗を早期に、適切に潰すことができさえすれば、権力は確定し、安定を見る。」
さらには、
それらの危険をひとたび克服し、自分の立場に妬みをいだく連中を滅ぼして
尊敬されはじめると、君主の勢力はより強力となり、安定し、栄光と繁栄をみる。


 と説いており、かかる強大な敵に勝利したという、君主の確かな実力を証明すれば、
これほどに君主の権威と高め、国をまとめるに効果的なことはないのである。


西方総軍の主力・第8艦隊の壊滅という、自身のおそらく最大の危機において、
ヴェインは冷静に迅速に策を立てた。それは、父・皇帝の毒殺の嫌疑を政敵にかけ、
国家反逆の名のもとに、反対勢力を根こそぎ破滅に追い込むという苛烈なものだった。

 父を失うという、「個」として相当の傷みを伴う、まさに感情を捨てての決断だ。

 だが、この事件後、回顧録において語られているように、むしろ帝国軍の士気は高まり、
ソリドールの権威は一層強まったのだ。
この大弾圧が、タイミング的にも、その規模においても、極めて効果的であり、
適切な処置であったことの、何よりの証明なのだ。