『花(後編)』 







 簡素な長椅子
で、縺れるようなったまま、サレは押し伏せてくるミルハウストのやや荒くなったような吐息を 感じ、先ほど見てしまった姫君のメッセージの文言のことを無理にでも考えないようにと目を閉じ、首を打ち振った。
 半ば投げやりな気持でミルハウストの背中に両腕を回す。
 しがみ付く手に少し力を込め、さらに指を這い上がらせ、首からミルハウストの髪へ移す。
 更に、先程舌の感触を知った首筋をのけ反らせるようにして慣れた仕草で誘った。
 相手が指と態度でようやく応えてくると、ミルハウストは触れ足りないように、首筋に舌を這わせ、激しさを増す舌の動きにわずかに揺れるサレの頭を追っ て、なおも口づけを繰り返した。
 その首筋に受けた濡れた感触から巻き立つような悦楽に、さらなる愉悦を拾い上げようと、サレは皮膚の感覚を研ぎ澄ませる。
 次第に熱していく喉元から掠れた吐息がもれる。
 時折、特に敏感に反応を見せる箇所に歯を立てられ、強く吸い上げられ、その瞬間の刺すような感触に、吐息に小さな悲鳴が混ざりこむようになり、身体の芯 から痺れのようなものが生じてくる。
「…ッ。」
 殺し損ねた吐息は甘く上ずって、それに気づかれると、すぐにまた激しく口づけられ、抗議めいた言葉もミルハウストの口の中に飲み込まれる。
「…ぅ。」
 唇が重なって荒々しく歯列を割って舌が口腔内に入り込んできた。
 侵入した舌は、サレの整った歯列を何度もねぶり、奥に逃れようとする舌がたまらなくなるのを待っていたように絡みつき、そのまま口の中を丁寧に探りだし た。
 一旦唇を離し、また音を立てて吸い上げ、繰り返してさらに激しさが増していく。
 下肢に伸びた手が、やや強引さをもって膝を割り、開かれた脚の間に身体が割り込んでくる。
 薄く目を開くと、刺し貫くような光を湛えた蒼い瞳がすぐ目の前にあるので、それに耐え切れずに首をわずかに逸らせて視線を外すが、密着した身体から 腿に当たる感触からは確かな熱さが伝わってくる。
 先程から腰を抱き込んでいた手が、身体の線を撫で下ろし、続いてするりと脚の中心に落ちた。
「あ、…ッ!。」
 布ごしになぞられ、そこからすぐさま官能の炎が灯されて、身体がつっぱるような甘い熱が全身を駆けめぐりだす。
「…ッ。」
 途端に思考が熱くにごり出し、淫らに打ち寄せる波に、少しずつ精神が溶け出してゆく。
 一瞬でも気をゆるめると、すぐにもそれに呑み込まれてしまいそうになる。
 ほとんど本能的に、それを少しでもやりすごそうと、もがくように唇を噛んで、長椅子の背にしがみつく指に力を込める。
 呼吸は喘ぎに変わり、その喘ぎすらも耐えられなくなってくると、一層呼吸が乱れた。
 乱れた呼吸とともに咽の奥はつっぱったようになり、身体を這う掌の動きに応えすぎるように次々と沸き起こる身の内を突き抜ける痺れに背がのけぞった。
「く…。」
 追い立ててくるような刺激の中にあと少しの悦楽を求め、白っぽく霞んだような視界の中に身を委ねようとする。
 が、ミルハウストが何か、思い立ったようにサレの身体をついと、突き放すようにした。
「…?。」
 ミルハウストは身を起こして長椅子から立ち上がり、机のほうに向かって行った。
 そして机の横の、書棚の中段に置いてあったあの花瓶に手を伸ばすと、その白色の花の部分だけを千切るように折り取った。
 ミルハウストは、長椅子の上で斜めに半分身を起こして、いぶかしげに見上げるサレの顎を掴むと、やや強引に上を向かせた。
 薄暗がりの中で、折り取られてミルハウストの右の指に摘まれたその花は、淡く白い光を放っているようだった。
 ミルハウストは、その白色の花を、まるで愛撫するような仕種で、するりとサレの、耳の少し上の髪にさした。
「…ッ!。」
 思いもよらぬミルハウストの行動にサレは、喉の奥で声を詰まらせた。
「何の真似、だ…。」
 サレは自分の声が怒りにわずかに上ずったことに気づいたが、見返してくるミルハウストの瞳は笑っていなかった。
 その瞬時にして悟ったミルハウストの意図、こちらを見下ろしてくる瞳の中にあるもの、それら全ての辱めに対して、サレは自分の呼吸が恐ろしいほど静かに なるのに気づいた。
 次の瞬間、サレは容赦せずにミルハウストの頬を平手で殴っていた。
 しかしその乾いた音が響いたとほぼ同時に、サレは右手首を掴み上げられた。
 サレは掴まれた手をもぎ離そうとしたが、ミルハウストはそれを許さず、今度は指を食い込ませるような強い力で、顎を掴まれた。
「…ッ、」
 暴力のように右手首を掴まれた不自由な状態になっては、もう、ミルハウストの身体を突き放すことはできない。
 せめて髪にある花を左手で払い落とそうとしたが、サレがそうする前に、両肩を掴まれ、そのまま再び長椅子の上に乱暴に倒された。
「…このっ。」
 背に受けた衝撃に息を詰まらせながら抵抗を試みた右手を掴み取ると、ミルハウストはサレの身体の下に押し込んで拘束した。
 再び身体の上に乗り上げてきたミルハウストの体重と、自分の体重を支えなければならない右腕に痛みが走り、サレは引き攣ったような息を漏らし た。
「…、やッ。」
 サレは、不自然な体勢で重みを受けた右肩の痛みに顔をしかめながらも、身を捩じらせてミルハウストから逃れようともがいた。
 しかしミルハウストはその左手をも掴み取ってしまい、長椅子に押し付けるようにすると、それでもう、サレの抵抗は終わりだった。
「よく似合う。」
 殊更に瞳を覗き込むようにしながら低く言ってミルハウストは唇の端に薄く笑みを剥いた。
 サレはその言葉と眼前の笑みの冷たさに、せめて拘束された左腕をもぎ離そうと悪あがきをした。
「何をっ、…。」
 上から体重をかけるように縫い止めて、サレの抵抗を封じたミルハウストは、少しも焦ることなく、その組み敷かれた姿勢のまま、ミルハウストを睨み上げる サレに嫣然と微笑み返した。
 押さえ込まれたまま、ゆっくりと上からミルハウストの唇が落ちてくる。
 発しようとした声が封じられる。
 サレは必死に身を捩らせ、首を振って、なんとかミルハウストの唇から逃れた。
「…嫌だッ。」
 長椅子の上に押し付けられた腕の自由を取り戻すことは、ミルハウストの力にねじふされては、どうしようもない。
「やッ。」
 言葉を続けようとしたが、ミルハウストはそれを無視してサレの服に手をかけてきた。
 言葉もないまま、上着の裾を荒々しく引上げられ、そのまま胸まで一気にたくし上げられる。
 すぐにそこから手が滑り込み、裸の肌に直に掌が触れた。
 掌は乱暴な動きで肌の上を這い上がり、胸の突起を探り当てると、それを指の腹で転がしたり、かるく爪ではじいたりした。
「ッ…。」
 唇を噛みしめて、漏れそうになる声をなんとか堪えると、かたく目を閉じてせいいっぱいの抵抗でミルハウストから顔を逸らした。
 閉じた瞼の向こうで、相手が、くっと笑った気配がした。
「いつもいつも得意の悪口雑言で相手を煙に巻いてばかりのお前が。本気で怒ったときには、こんなに素直で可愛い顔をする。」
 その呆れるほど傲慢な言葉に、カッと顔に血が昇ったのが分った。
 しかし殊更思い知らせるように、ミルハウストは、その抗う仕種、抗議に上げる声すらも、愉しむように、一つ一つ、押さえ込む。
 抵抗を捻じ伏せる暴力の先に強いられる服従に、憎しみにすら近い悔しさが呼び覚まされた。
「私に嘘をつかないで欲しい。本当のことを言って欲しい。本当の姿が見たい。」
「…な、に?。」
「毎日毎日、嘘ばかりにまみれて、へらへら表面に薄笑いを浮かべている連中ばかりと付き合って生きているのは私なんだ。お前にまで嘘をつかれたのでは、た まらないよ。…『四星のサレ』。」
 その言葉の真意を確かめる間もなく、突然、電流が走ったように、サレの身体がびくりと跳ね上がった。
 下肢に伸びてきた手が、ファスナーを押し下げ、指が侵入し、そのままそこを乱暴にさすり上げてくる。
「あ…ッ。」
 一瞬、喉を通り抜けた、そのかすれた呻きの甘ったるさに、耳にしても自分の声であるということを疑った。
 しかし、指の動きにつられてほどけてしまった唇からは、堪え損ねた声に呼ばれたように次々と吐息がこぼれ、不規則に乱れて訴えるような喘ぎに変わる。
 意思に反して勝手に身体は急速に熱くなり、苦痛のためではない涙が目尻に溜まる。
 それでも追い詰められるときのように、精神的な嫌悪感に首をうち振ると、髪に飾られた白い花が、カサリと耳元をかすめた。
「…ッ、…やめろッ…!、とれぇッ!!。」
 その花の冷たい感触にサレは殆ど悲鳴のような声で叫んでいた。
 存外に強い調子のサレの声に、ミルハウストは一瞬、怯んだような表情を浮かべ、次に眉を顰めた。
 そして、短く息をついて、サレの髪にさした花をつまんで、そのまま床に放り投げた。
「…。」
 ミルハウストは、何かに気付いたような顔をしたが、それきり黙ってしまった。
 何か、考えているような視線を少しサレに向けたが、何も言わずに再び唇を重ねてきた。
 ミルハウストが無造作に放り投げた花が、フローリングの床面に当たって、弱々しい音をたてるのを、サレは身体の下に組み敷かれながら、どこかひどく不本 意な気持ちで聴いた。
 床面にたたきつけられた花は、明日には醜くしおれるのだろう。
 美しく可憐であったはずの白い花が潰れて日にさらされた哀れな姿を見なければならないことを考え、サレは僅かに身を竦ませた。
 あの花に象徴されるもの、送り主。
 そんなものに対してああいう態度を取れる男だっただろうか。
 たしかに理に見合わないことを極端に排除したがる男ではある。だが、今夜のミルハウストはそういうものですらない。
 冷たさだけを露わにするミルハウストは、何を考えているのか分からない。

 その晩の行為は、会話らしい会話もなく、やたらと温度が高く、激しかった。
 長椅子の上で、二人は火がついたようにもつれて絡み合った。
 肌を這う掌は、丹念に熱い皮膚を探り、幾度もこすりあげてくる。
 敏感な箇所を捜し当てられるたびに下腹の皮膚に痙攣が走った。
 無様に流されたくないと、背の筋肉に篭った力はいっときも抜けなくなり、長椅子の背もたれに当たった肌は荒くこすられた。
 肌を這う掌の感触と、続けざまになぶる舌と、それ以外には何も感じなくなった。
 何もわからないまま、ミルハウストとの行為に翻弄された。
 自分の喉から、ひっきりなしに声が漏れていることに、サレは気づいていたが、止めようとしても、止められるものではなかった。
 相手の求めを身体全体で受けとめて、さらに足りないように求め続ける。
 悔しさや屈辱感、怒りや苛立ちも、全て間違いなくあるはずなのに、身体の興奮に押し流されてしまうようだった。

 ミルハウストは何も言わない。
 あの花と一緒に添えられていたアガーテ姫からのメッセージにしても、それきり何も言いはしなかった。
 ただ、何かひどく、後ろめたいような思いがサレに残っただけだった。   
「…明日は非番だったな。今夜は泊まっていくんだろう。」
 行為の最中、荒く息を吐きながら、ミルハウストはそんなことを言った。
 そんなまるで、恋人まがいのセリフを何故この男が自分に向かって吐けるのか、解らなかった。
 解ろうとして考えようとしても、裸の脚を抱え上げられ、身体を折り曲げられ、身の内を突き上げられてしまえば、息は詰まり、思考は鈍く途切れてしまう。
 その荒々しさに耐えきれず、逃れようとずり上がると、ミルハウストは、痣になるほど肌に指を食い込ませ、自分の方に引き寄せる。 
 悦楽よりもむしろ苦痛に近くなった行為の激しさに、小さく悲鳴を上げてもミルハウストは薄く笑みを浮かべたまま、一層、追い詰めるようにサレを抱いた。
「朝まで、ここにいればいい。…なんなら、昼まで寝ててもいいぞ。」
 押しつけられる熱に浮かされながら、現実味が薄い中、サレはその言葉を聞いた。

 部屋に呼ばれること。それにあたかも共犯者への誘いのような興奮を見出していた。 
 ミルハウストの内面に潜む、黒く、強固なものを垣間見ることができる期待に、どこか自負のようなものも感じていた。
 だからこそ今夜のように、決して自分にも介在できない領域を、ミルハウストはまだ持とうとしているのだと思わせられるとき、たまらない苛立ちを覚える。
 こちらにばかり「嘘をつくな。」と強制しておいて、直前のところで目の前で扉を閉めてしまうように、本心の奥底を決して見せようとはしないミルハウス ト。
 幾度抱かれたところで、そこには安らぎも生まれやしない。
 そんなものは欲しくない。
 けれど、ミルハウストに抱かれるとき、いつものミルハウストからは想像もつかぬ激しさを垣間見ることができることも知っていた。
 その蒼い瞳の奥に宿る、とろとろと燃える焔のようなもの。
 そんなときには、普段のミルハウストの顔に、あれほど清廉な印象を持たせているのは、品の良い物腰や、完璧に作られた忠義の仮面であることを思い知る。
 ミルハウストの整いすぎた顔は、ほんのわずかにでもその本心を垣間見せた瞬間には、戦慄するほど冷たく、何者も寄せ付けない支配者の顔をしていた。
 そしてこれこそが、おそらく自分だけにしか見ることができないミルハウストの本当の姿であると思うのだ。

 抱かれながら、サレは、先程、見てしまったアガーテ姫からの手紙のことを思った。
 ミルハウストに対する、少女めいた愛の告白の言葉と、懸命の誘いと。
 それと。
 ある行動へのある決意だった。
 『私がガジュマの身でなければ、貴方を誰にも渡しはしないのに。』
 メッセージの最後には、小さめの丁寧な女文字で、そう書かれていた。
 ヒューマの身体が欲しいと。
 たしかにこの王国において、未だはびこる旧体制に対抗し、それらを一掃するためには、『王女』であり、次代の女王となるアガーテ姫に取り入るのが手っ取 り早い。
 けれどヒューマとガジュマの共存を保ちながらも、両種族が正しく繁栄していくために、婚姻を認めない制度を作ったのは、現カレギア国王である。
 こんな状態では、アガーテ姫のミルハウストへの想いは、むしろ、ミルハウストの野望や目標にとっての足かせになる。
 世間知らずなアガーテ姫はすっかりミルハウストのとりこだ。
 そしてそうなるべく仕向けたのがミルハウストであることも、サレはよく知っていた。
 最初は、国王の愛娘であるアガーテに取り入り、好意を持たせ、間接的に国王を完璧に味方につけることを画策したのだと、サレはそう思い込んでいた。
 しかしこれまで、ミルハウスト自身、舐めきっていた「小娘」のアガーテ姫が、王国の絶対の秩序であり、同時にタブーであるところのヒューマとガジュマの 婚姻をどうこうし、同時にミルハウスト本人を手にいれようと自らの意志で動いている。
 自ら動かせる軍隊を持たないアガーテ姫は、それを成しえるために、必ず侍女ジルバの力を頼ることになり、そうなれば必然的に『王の盾』を動かすことにな る。
 そして、そうなったら自分はもう後戻りはできないだろう。
 早くしてほしい。
 急いで欲しい。
 ミルハウスト。
 僕の期待に応えてほしい。
 ミルハウストとこうも長いこと身体の関係であること、それ自体については、あまり執着していない。
 ミルハウストへの感情が、あたかも恋に似たものに変貌することなど考えたことはない。
 この関係を続けていれば、正規軍と王の盾という、どこか相対する組織に属する者同士であるという関係を逸脱しかねないと思うことはあるにはあったが、だ からといって、この感情だけをもって、ミルハウストの抱える野心そのものに対し、特定の立場に踏み込もうとする意思はなかった。
 しかし、時折見せ付けられる、ミルハウストの自分に向けられるあの支配。
 あの、自分の上に敷かれた現実としての征服。
 要求してくるもの。
 それは、一見幼稚な独占欲に似通ってはいたが、それよりも、はるかに温度が高い。
 ミルハウストの方からも、明らかに自分に執着心が向けられている。
 それを認めることは、甘美であり、そして同時に苦痛であった。
 そういう風に考えてしまったら、いつかミルハウストの執着が失われたとき、つき離された自分が、どう傷つくかということを恐れなければならないからだ。
 いつだって一人だった。
 そしてそう思うことによって生き延びてこられた。
 ならば、傷つくことを恐れるのは、矛盾しているかもしれない。
 最初から無いものと決めてかかっているものを失うのではないかと恐れるのは、滑稽かもしれない。
 しかし、矛盾した精神の奥底で、何か到底失いたくないような執着が、ミルハウストに向けられているのは、もうどうしようもない。
 この部屋に通い続けている。
 それは愛でもなく、恋の形もしていない。
 ただ、強烈に。
 真実の姿をしたときの、この男の欲を自分のものにしたい。
 自分を抱く、ミルハウストの瞳の中に何度も見つけてしまった。
 それは紛れも無く、自分も望んでいたことだった。 
 
『愛しています。』
 あんな風な無防備な言葉を、一体誰に向かって言っているのか。

『王女としてではなく。わたくしはあなたを愛しています。ガジュマの身でなければ、他の誰にもあなたを渡しはしないのに。』

 あんな風に、己の立場を否定して、何もかも投げ打って欲したところで、何を得ようと言うんだ。
 虚像にどれほど恋したとて、所詮偽者からは得られるものなど何もないんだよ。
 知ってる?、姫様。
 ミルハウストの本当の顔を。
 この部屋でミルハウストが何を考えているのか。
 一度でも考えたことがある・・・?。




 夜の強風にあおられて、ざわめく木々はどこか悲鳴を思わせる。
 窓越しの常夜灯が放つ光が、振り乱れる木々の枝の輪郭を浮かび上がらせていた。
 降り始めた雨の、屋根に、ガラスの窓に当たる水滴が伝えてくる小さな振動に、サレはぼんやりと、暗く、重い雲が垂れ込めた灰色の空を思った。
 耳元で、幾筋もの、細い掻き傷が、きりきりと引かれる音がする。
 その傷口からは細い血の朱が滲みだし、それは、やがて小さないくつもの 赤い玉の群れになり、そのまま皮膚にこびりつくように固まるようだった。

 利用するものとされる者。 
 支配するものとされる者。
 この世には、二種類の人間がいる。
 では、自分は?。
 国王の信頼を一身に受け、王女に愛されて、その武将のしての力と明晰な頭脳とで正規軍のトップにのし上がった若き将軍。
 その男にこうして夜毎抱かれ続けることが、どうか戯れだけではないことを、息を潜めるようにして願う自分はどっちの部類に入るのかなど、一目瞭然である ようにも思える。

 嫌悪と執着と。
 繰り返して悪態で自我の防衛を図ろうにも。
 夜が来て、誘いを受ければ、またこの部屋へと足を運ぶ。







 







2005 0301  RUI TSUKADA



 ラブラブではない。ツーカーでもない。で、カラダだけなのか、というとやっぱりそれだけでもない。
 互いにまぎれもなく執着し、「自分が興奮するのはお前だけ」な大人な関係がミルサレって感じでしょうかッ(腐っているぞ!!)。

 
 読んでくださってありがとうございました。
 おつかれさまでした!。