『凶 暴に相愛』 


 

 
 ロニは、酔っぱらってすっかりぐでぐでになったカイルを担ぎながら、アイグレッテの宿屋の二階の廊下をぎしぎし歩いていた。
 自分に比べれば小柄なカイルとは言え、男の身体は結構重い。
 担いだまま階段を昇るのは、なかなかの重労働だ。
「よーし、…やれやれ、っと…。」
 二階の廊下の突き当たりの一番奥の部屋は、運良くドアが半開き状態になっていた。
 カイルが出るとき鍵をかけなかったのであろうが、とりあえず今は都合がいい。隙間に足先を割り込ませて手を使わずにドアを開けることができる。
 入り際、ドアノブをちらっと見ると、鍵が壊れていた。
 安宿だから客室のメンテが間に合わないのか、よほど主人が鷹揚?なのか。
 これでは内鍵はいかにも頼りないチェーンだけじゃないか。
 一体いつからこうなんだ。明日は絶対俺から修理を要求しよう。
 そう思いながらカイルを部屋に運び込むが、両腕がふさがっているため、壁の電気のスイッチに手が届かない。
 が、部屋は大して広くないので、移動するには廊下から漏れてくる明かりで事足りた。
 東側の窓の傍に備え付けてあるベッドに、すっかり爆睡モードになっているカイルを、やはり兄貴らしく、それなりに注意を払って横たえて、隅に丸めて寄せ てあった毛布を適当に伸ばして寝かしつける。
 カイルの口がもぞもぞと動いて何かを言ったようだったが、よく聞き取れなかった。
 ぽんぽんと軽く毛布をはたいてひと心地つき、やれやれと大きく伸びをして、次いで肩をごりごりとまわした。




 ##

 旅のメンバーは、休暇と称してアイグレッテに宿泊中だった。
 少しばかり、旅の目的とか、これからやらなければならないこととか。
 正直、考えていたよりもずっとかなり深刻な展開になってしまったことに行き詰っていた。
 そんなこんなで諸先輩にアドバイスをもらいに各地を巡っている最中だったのだが、最初に話を聞こうと思ったストレイライズ神殿の高司祭フィリアは、あい にく巡業に出てしまっていて留守にしており、戻るまでに数日かかるとのことだった。
 カルビオラでエルレインが言外に匂わせていた『破壊の彗星』のことを考えれば、事態は考えてたよりも相当切羽詰まったとこまで来ているに違いなかった が、ずっと戦い続きで、そろそろ積極的に休みを取るべきだったし、皆、気分的にも追い詰められてもいた。
 今更焦っても仕方ないので、取り合えず神殿の若い司祭に面会の約束だけを取り付けてもらい、近くの街であるアイグレッテの宿屋にしばらく滞在することに した。

 その夜、しばらくぶりの開放感から、最初にハメをはずしたハロルドを筆頭に、宴会は妙なノリで盛り上がり、面白がって杯をつがれるままに飲んだカイルが 真っ先につぶれた。
 未成年に酒をすすめるな、飲むな、と最初のうちこそ小言を言っていたジューダスも、すっかり面白がって飲むカイルに呆れると、以後放置を決め込んでい た。
 こうなると、いつも先頭に立って宴会盛り上げ係を請け負うはずのロニは、フォロー役に徹するしかない。
 ろれつの回らなくなったカイルの話に、うんうんと適当に相槌を打って付き合いながら、こいつ絡み上戸だったのか、今日はやけにハイじゃないかと助け舟を 求めてちらっとジューダスの方を見ようにも、こっちは全くあてにならない。
 かくて見事に酔いつぶれたハロルドと途中で眠り込んだリアラは、成り行き上やはり損な役割のナナリーがなんとかすることになり、ジューダスは宴会でぐ ちゃぐちゃになった部屋の片付け役となる。
 階下に下りてロニが宴会用に借りた小食堂のドアを開けると、もうあらかた片付いていて、ジューダスはまとめたゴミの袋を部屋の隅に運んでいるところだっ た。
「よ、お疲れ〜。…カイルはとりあえず部屋に運んどいたぜ。ぐでんぐでんで、ちっこいくせに結構、重いんでやんの。」
 そう言って、肩をぐりぐり回すロニにジューダスは、うん、と頷いた。
 なみなみ注がれたビールを、おだてに乗ってイッキするカイルは傍から見ていて相当やばかった。
 散々飲み食いして大騒ぎして、さっさと潰れてくれただけラッキーだったかもしれない。
「…まあ、ある程度は仕方ないかもな。あいつも今、色々大変なんだ。」
 そのジューダスの言葉にロニは少し驚きながらも、うんうんと頷ずく。
 カイルには本当に甘い。いつもはびしびし容赦なく厳しいくせに、こういう決定的なところで譲歩する。
 けれど未だ『神』との戦いについて、気持ちの整理がつききれていないカイルの悩みは深くて大きい。
 正直随分面倒なことを抱え込んだものだと思う。
 無理に明るく振舞っているようにも見える今日の騒ぎぶりは、精神的な負担の重さの裏返しだった。
 二人は片付いた部屋の真ん中で少し黙り込んでしまったが、ロニが思い立ったように最後に残った大きなゴミの袋を取り上げた。
「…さてと、これ運んだら俺たちも部屋に引き上げようぜ。あ〜、なんだか今日は全然飲んだ気がしねえよな。」
「…結構、飲んでいたじゃないか。」
「実は俺ってすごく強いから、相当飲まないと、飲んだうちにはいらないの。」
「いわゆる世話焼き係の体質か。」
「お前もなあ。」

 もう時間は深夜に近く、宿屋のフロントやロビーも明かりが落とされ、建物全体が、しんとしていた。
 ロニとジューダスは、足音を忍ばせながら、階段を上って自分たちの部屋に入った。
 だが寝るには中途半端な時間だし、正直眠くない。
「なあ、ジューダス…。ちょっと俺たち、飲みなおさねえ?。」
 ロニは半ば勢いに任せてそう言って、さっきの宴会の残りの酒を取り出した。
「…少しくらいならかまわないが、その前に、お前、着替えた方がいいぞ。少し、…臭う。」
 そう言われて、「おお!」と、ロニはシャツを摘み上げた。
 先程カイルを運んだとき、ちょっとやられてしまったようだ。
 ロニは酒とグラスをジューダスに手渡すと、着替えをもって、バスルームの方に向かった。
 手早くシャワーを浴びて、10分くらいで出てくると、そこにはジューダスの姿がなかった。
「あれ?、おーい。ジューダス。」
 見ればテーブルの上には、グラスが二つ並んでいて、氷もつまみも用意してあった。
 なんだ?、と思ってテーブルの向うを覗くと、ジューダスが床に突っ伏していた。
「なんだよ。床で寝てんのか?、それともやっぱりお前も潰れちゃったのか〜?。」
 おい、と声を掛けながらかがみこむと、ジューダスは緩慢な動作でむくりと起き上がった。
「…違う!、少しウトウトしていただけだ。…宴会は正直疲れるんだ。」
 不機嫌そうな声で言うと、おもむろにグラスにからんからんと氷を入れて酒を注ぎ、「ほら、お前も全然足りなかったんだろう。」と強引にロニに手渡した。

 その晩、ロニとジューダスは、宿屋の部屋で、はじめて二人きりで飲みながら、少し、互いのことを話した。
 旅の間、一緒にいた時間は結構長かったと思うのに、二人ともどちらかと言えばメンバーの世話焼き係だったため、余裕のない旅の道程に、いつも互いに事務 的なことしか話していなかったから、互いの話はそれぞれに新鮮だった。
 1000年前の天地戦争の終結を歴史通りに守ったこと、そして18年前の神の眼の騒乱を大切な半身と引き換えにして終焉に導いたこと。
 誰に知られることもなく、歪められた歴史を修正してまわった旅。
 その、高揚感が残っているのかもしれなかった。
 これからやってくる未知なる戦いへの不安があるのかもしれなかった。
 ふと、会話が途切れた頃には、そろそろ2時を回ろうとしていた。
 互いのグラスの氷が溶けかけて酒の琥珀色が薄くなっている。
 ジューダスは、寝台の柱にもたれ掛るように腰掛けて、グラスを灯に透かして、少しうつろな表情をしていた。
 二人分の体温を吸い込んだガラス窓は、外の夜の冷気にひやされてぼやけていた。
 ふと、ジューダスが替えの氷を取ろうと、立ち上がろうとした。
「…。」
 かくん、と力を失って、ジューダスはその場にぺしゃん、と座り込んでしまった。
 ジューダスはいぶかしげに首を傾げて、もう一度、膝についたつまみのくずを払いながら立ち上がろうとするが、今度は本当に立ち上がれない。
「…。」
 納得のいかない顔をしたジューダスは、座り込んだまま、グラスに残っている酒を飲み干し、グラスを空にした。
 そして、サイドテーブルに置いてある酒瓶を指先で起用に引き寄せると、蓋を開けてまた、グラスに注ぎ足した。
「おい、ロニ、…ちょっと氷を取ってくれ。」
「…ああ、うん。」
 そうは言ったものの、先程のジューダスの様子と併せてロニは少し、不安になってきた。
 表情にも声にもいつもの余裕が無いように思える。
「おい、ジューダス。お前ちょっと、ペース早くねえ?。」
 ジューダスはここまで合計5杯くらい飲んでいる。
 顔色自体は、あんまり変わっていないようであるが、目が少しだけ、潤んでいるような気もする。
「飲みすぎなんじゃ…。」
 あのジューダスのことだから、大丈夫だろうと思って適当に自分のペースで酒を酌み交わしていたが、ジューダスって、本来、未成年なんじゃ…。
「そんなことはない。だいたい、さっきからお前の方がずっと多く飲んでる。」
「俺は元々強いし、慣れてるからいいんだって。・・・お前は無理するなよ。いや、まじでさ。」
 ロニは年長者らしく心配顔でそう言った。 
 本来、年下の扱いには慣れているわけだけど、その気遣うべき年下の範疇に、これまでジューダスは入っていなかったから、やはりちょっとやりづらい。
 が、ロニの心配顔が、ジューダスの神経を逆撫でし、ジューダスは無言でテーブルの端に手をかけると、ぐぐ、っとそこに体重をかけて立ち上がった。
 随分妙な力の入れ具合だ。
「…もしかしなくても、お前、酔った、な?。」
 そう言った途端、ジューダスの表情が変わる。
「僕は酔ってなんかないッ。」
 そう断言して氷の方に腕を伸ばしたが、そのときジューダスの左腕の肘から力が抜けて身体がぐらりと傾いだ。
「危ね!、」
 咄嗟に伸ばした腕でジューダスを支える。
「危ねえなぁ。ホレ、もうこのへんで止めとこうぜ、ジューダス!、」
「…。」
「ジューダス?。」
 ジューダスは、俯き黙り込んだまま、向かい合ったロニのシャツをぐぐっと握り締めていた。
「な、何だよ。」
 らしくもない仕草にロニは俯いているジューダスを覗き込んだ。
 少しの沈黙の後、ジューダスは、ゆっくりと顔を上げた。
 真正面、至近距離のジューダスの顔。
 その目が甘く潤んでいる。
 …嫌な予感がする。
 酔っている。これは完全に酔っている顔だ。
 どうしよう。
 ロニは、酔っ払ったジューダスなどという世にも珍しいものに、唐突に、この、よりにもよって二人きりの!、深夜の部屋で遭遇してしまうという自分の運の 悪さ(強さ)にうろたえた。
「お、俺達もさ、もうそろそろお開きにしようぜ!。ほら、明日も早いしよ。」
 ロニはかなりの嫌な予感と、それと同じくらいの、このまま寝てしまうには、あまりにももったいなさすぎるという気分を抱えて、複雑な気持ちになって ジューダスの身体を支えながら、自分の理性を総動員し始めた。
「ロニ。」
 ジューダスが見上げてくる。
 日頃、こっそり憧れている大きくて綺麗な紫色の瞳が潤んでいる。
 ふらふら状態だ。
 さっきの様子では、たぶん、支え無しには歩けない。
 ということは。この展開でいくと、このままこいつを抱っこして、ベッドまで連れて行かなければならないのは、自分の役目ということになる。
 ベッドに。
 この状態のジューダスを。
 俺が。
 …拷問だ!。
 そう考え至った途端、ロニは、以前、これでもか、というほど渇望した末に喰い散らかしてしまった前科とか、そのとき知ったジューダスの黒服に包まれた肌 の滑らかさとか、その他もろもろ、ものすごい勢いで鮮やかに思い出してしまった。
 神様、なぜ貴方は俺に、とてつもない試練ばかりをお与えになるのでしょうか。
 本命には焦らない、絶対に絶対に慎重になるのだ。
 と心に誓った矢先にもうこれである。
「…あ、あのさあ、ジューダス。お前さ、いま酔っているだろ、ベロベロだな。きっと今日俺としゃべった内容なんて明日になったらきれいさっぱり忘れるんだ ろうな。お前は認めたがらねえけど、はっきり言ってお前は酒に強くない。だが怒るなよ?、意味を取り違えるな?。お前は喧嘩はめっぽう強いかもしれんが、 それとこれとは話が別だ。体質なんだ。生まれつきで、こればっかりはいくらお前でもどうしようもない。人間、記憶が飛ぶまで飲んじゃあいけねーよ。いい か、お前は今夜、この俺の前で酔っぱらうというとんでもない失敗をした。しかも俺は前科持ちの悪〜い男だ!。正直お前に気がある。だがな、安心しろ、俺は 以前の俺じゃねえ。前後不覚になったお前を押し倒すほど飢えちゃいねえし、そんなことはしない。だからお前は何も心配せずにこれから俺と一緒にベッドに行 くんだ。」
 説明口調の妙な言い回しで語りながら、あくまでもそれは自分に言い聞かせているあたり、情けないやら空しいやら。
 それでもロニは、「さあ!。」と言って、ふらふらになったジューダスの左腕を、親切な友達の助けの手をもって取ろうとした。
 細いなあ…。
 などと感じいっている場合ではない。
 酔っ払っているジューダスに手を出したのではカッコ悪すぎる。
 事後のことを考える余裕、って言っても正直これがぎりぎりある。
 が、「僕は酔ってなんかいない!。」
 なおもそう言ってジューダスは、掴まれた腕を振り払おうとする。
「いいかロニ、酔うはずがないんだ。この僕が!。…その証拠にさっきからちゃんとお前と会話してるじゃないか!。」
 足腰が立たないため、ジューダスは少し仰け反ったような体勢になっている。で、その上に屈み込んだ自分。おお、危ない体勢だ。
「だから、まともに会話になってないじゃないか。お前は酔っているんだっ。ホラ、今日は大人しくベッドに行けよ、行ってくれよ。」
 そろそろこっちも涙声になってきた。
 酔っ払った相手と押し問答してても埒があかないので、ロニはええいと覚悟を決め、この腰が立たなくなっている状態のジューダスを抱き上げ、ダッシュで ベッドまで連れて行った。
 安宿なので、お世辞にもスプリングが効いているとは言えないベッドに放り込まれて背中を打ったジューダスは痛かったに違いない。
 ここまでは何とかなったが、ジューダスは襟元までしっかりボタンをとめている服がきゅうくつそうで靴ははいたままだった。
 だが、酔っ払いジューダスの服をくつろげたり、あるいは着替えさせたりする余裕など、さすがにこっちの我慢も在庫切れだ。
「よし!寝たな!。おやすみジューダス!、あとは自分で何とかしろよ!!。」
 声はもはやヤケ。
 が、ジューダスは、仰向けの状態で、ふう〜とため息をつくと、猫のように大きく伸びをして、自分で襟元のボタンを外して寛げ始めた。
「…。」
 ごく。
 と自分の喉が鳴る音がはっきり聞こえた。
 ジューダスは服の前のボタンをかなり下まではずして、ばさばさとそれをくつろげると、はあ〜、っとやけにさっぱりとした顔で深呼吸していた。
 そのときちら、っと見えてしまったジューダスの胸元のあたりとか、酒のせいで桜色にそまった肌とか、そういうものに再び視線が引っ張られるものの、以 前、己に課した訓戒をもって、あまりにももったいないそれから視線を引き剥がした。
 世にも珍しい酔い乱れたジューダスの姿。
 おそらく今夜これが俺を寝かしてくれないんだろう。
 そう思いながら、ロニはとぼとぼ自分のベッドに向かうことにした。
 が、
「ロニ。」
「な、なんだよ。」
「…。」
 振り返るとジューダスが右手で手招きをしている。
「う、うん?。」
 ロニは何か言いたげなジューダスのベッドの傍にかがんだ。
「昔…さ。」
「昔?。」
「…うん、昔だ。僕がまだ、小さくて、…、ダリルシェイドの屋敷に居た頃、僕に、唄をうたってくれたんだ。…母上が。」
「…。」
 話題が唐突だったが、ダリルシェイドの屋敷がヒューゴ邸のことだということはすぐにわかった。
 普段身内のことなど、絶対話さなかったくせに、酔いのせいなのか、無防備に昔のことを話し出したジューダスには驚きだったが、それにしても『母上』。
 ほんとにこいつは坊ちゃん育ちだったんだ、と妙に今はかわいく思う。
「それで、…僕は母上の顔とか、全然、覚えてないんだけど、なぜか唄は覚えている。」
「…。」
「母上の手が、…。」
 ジューダスは、そう言って、ロニの手をつかみとり、自分の頬にもっていった。
「こうやって、僕の頬にふれて、…顔はちっとも覚えてないんだけど、唄とか、掌の感触とかだけは、…不思議と覚えているものなんだ。」
「そっか…。」
「けど、唄の方はな、どうもおかしいと思っていたら、どうやら、母上じゃなくて、シャルが。…シャルが母上の唄のふしを真似て、しばらく唄っていたからみ たいなんだ。」
「…。」
「もう、へたっくそでさ…。わらっちゃうくらいに、歌詞とかも違っているし、」
「…。」
「ロニ。」
「なんだ。」
「もう、母上も、…シャルも居ないけど、僕はこうして生きている。」
「ああ、俺達の仲間だもんな。」
「ロニ。」
「なんだ。」
「僕、お前のこと、結構好きだ。」
 ジューダスはそう言って、ロニの手を、少し強めに握り締め、ついでそれに唇を寄せた。
「…おまえ、酔ってるだろ。」
「くどいな。僕は酔っていない。何度言わせる。」
「…じゃあ、じゃあさ。…俺のどこが好きなのか、言ってみろよ!。」
「…。」
 言葉が途切れたジューダスに、ロニはおもわず、ぶんぶん!と首をふった。
「ほら見ろ。やっぱり会話になってない。お前は酔っている!。寝ろ寝ろ。酔っ払いは寝る時間だぜ〜。」
 本当はすごく続きを聞きたかったがジューダスはやはり酔っているのである。
 これ以上、深入りしたって明らかに誘導尋問。
 おまけに聞き出した内容に有頂天になって、明日になったら、まるっきり記憶の無いジューダスとご対面したのでは、どれほどすさまじい後悔の嵐におそわれ るやら。想像できる自分は、やはりそれなりに場数を踏んだ大人なのだ。
 妄想と現実のギャップが大きければ大きいほどあとのショックもでかいのだ。
 長年の経験から、俺だって色々学ぶのだ。
「…お前の、」
 ジューダスの声にロニは心臓飛び上がるほど驚いた。
「え!」
「…お前のその、…ガサツで、粗野で、やかましくて、単純で、無計画で、軽くて…。」
 褒められていない!、それって全然褒めてねえよ。
 そう突っ込もうとしたが、ジューダスは、すごくすごくうれしそうに微笑んだまま続けた。
「…結構、まわりのこと気にかけてて、…嫌なこととかも、顔に出さないでいられるとことか、優しいとことか、あと…。」
「…。」
 あけすけで無防備なジューダスの告白に、ロニはどこか、というか、体の真ん中あたりに、ずきんといたたまれない思いをした。
 思わず、思わず、ものすごくジューダスの言葉ひとつひとつに幸せになれる自分が居る。
 ああ、願わくば。
 この言葉が幻でないうちに。
 夢じゃないよな。これって。
 意を決してロニはジューダスの顔を覗き込む。
 ああ、やっぱり綺麗だぁ。
 男だとか、そういうことなんか、ホント、どうでもよくなっちゃうくらいにジューダスは綺麗。
 けれど、最初のときみたいに、滅茶苦茶しないように。
 嫌われたくない。
 大切にしたい。
 好きな相手だからこその精一杯の優しさ。これって恋するものなら当然なんだよな。
「…あのな、ジューダス、実は、実はさ、…俺も、ずっと前からお前のことさ。」
 そこまで言いかけてベッドの中のジューダスを覗き込んでみると、もう、ジューダスは静かな寝息を立てていた。
「お、おい、おーい。ジューダス!、ジューダスよ〜。」
 そうは言ったものの、その寝顔の無防備さ。
 思わずかわいいなあ、なんて、起きていたら絶対ぶっとばされそうなことを耳元で言ってみる。
 これくらいなら許されるかな。
「まあ、役得かな。」
 ロニはまんざらでもなく、幸せをかみしめた。














2004 0730  RUI TSUKADA


  書いていてすごく軽い気持ちになれる ロニジュというCPは本当に本当に貴重な存在です!。
 あからさまに食いたがっているくせに、ジューダスにべたべた惚れててとことん甘いロニ。
 ロニの気持ちをわかってて、あおりもてあそび?つつ、やっぱりうれしい、こいつと親睦ふかめたい、なジューダス。
 ロニジュはもしかしたら、唯一、ジューダスがやすらげるヤオイを書ける素材なのかもだ!。