『束縛的記憶(5)』 








 シャワーの滴が勢いよくタイルに跳ね、広い浴室はあっという間に湯気で白くくもった。
 意図的に熱くした湯に打たれていると、ジューダスの中の、ともすればささくれ、卑屈な方向に進みがちなものが少しずつ誤魔化され、それは曖昧な覚悟と言 う名の諦めの感情に変わっていく。
 全開にした強いシャワーの湯が肌に当たる感触は、殆ど痛みに近く、白い泡を伴った流れが滑らかな肌を滑り降りていった。
 その流れを視線で追えば、服で隠れるギリギリのところまで、この数日の間に肌に刻み込まれた、所有の痕をいくつも見つけることができる。
 中には、明らかに歯を立てられたのだと分かる、生々しく穿たれ変色した傷すらもあった。
 そんな暴力にも近い夜毎の行為の痕跡を目で追い指で触れれば、めったになかったことであるが、ジューダスは自分自身に対する憐憫の感情に胸を締め付けら れる思いをした。
 ジューダスは自分の身体を巻き締めるようにして、本来においては、手を差し伸べてくれた協力者であるはずの、そして同時に確かに愛しく思いながらも、そ の愛を盾にして利用することとなってしまった旧知の男を思い、頭から湯に打たれながら、広い浴室の中で立ち尽くしていた。
 『リオン』であったとき、自分にとっては、男の情欲を掻き立てることと同じくらいに愛は道具だったと思う。
 愛の言葉をちらつかせながら欲望を煽れば、いとも簡単に足元に縋り、全てを投げ出し、ひれ伏す男を何人見てきたことか。
 それらを見下し、唇の端に浮かべた冷笑で、あるいは差し伸べる指の動きで操り利用してきた。
 どれもこれも父・ヒューゴの利益のため、命令されるままに行ったこと。
 結果、男が破滅し、たとえ死に至ろうとも何とも思わなかった。
 そこには己の意思など介在する余地もなく、せいぜい憂鬱な任務の一つに過ぎないことで、例えば相手の男が、どんなふうに自分を抱いただとか、どんな言葉 を交わしただとか、そういうことは、片っ端から忘れるようにしていた。
 けれどそれは、『リオン・マグナス』という偽名に象徴される偽りの己が成したことであるからこそ、あれほどまでに徹底した無関心を装えたのではなかろう か。
 『ジューダス』となって新たな生を与えられた今、あのとき確かにヒューゴに逆らう形で愛していたと言える男への想い、後ろめたさの葛藤、己をごまかす方 便のような傷心。
 この混在する感情群をどう整理つけたらいいのか分からない。
 相手が誰とであっても、肌を合わせるという行為そのものの中に、到底純粋とは言えない自分が居る。
 たとえウッドロウであっても、確かに愛しいとは思う反面、これはあくまでも取引の延長であるのだと、冷め切って己を納得させようとしている。
 けれど今、紡いだ言葉も、身を委ね抱かれるときの愉悦も、全て嘘なのだと言ってしまえば、これほどまでに苦い。
 ジューダスは首を軽く左右に振った。
 おかしなものだと思う。『ジューダス』こそ偽りの名、偽りの命だろうに。
 目的を達成するための質草になるのであれば、たとえそれが、己の命であっても利用する。その気持ちに変わりはない。
 そしてそれは、人としてのしがらみであるとか、旧知の男への個人的な想いであるとか。そういった感傷を全て排してしかるべき性質のものだ。
 けれど。 
 どうしようもなく剥き出しにされていく迷いの感情にまみれて浴室から出、その男の待つ部屋に行くために、とりあえずにおいて、かるく身繕いをする。
 鏡に向かい、髪を乾かして梳き、整えていく。
 その機械的な手順は、自分の内面を、都合の良いように変化させていくためのもの。
 髪がすっかり乾いてしまう頃には思うよりも早く計算高く冷めた自分が出来上がる。
 どれほどの行為、身体に受ける苦痛も、羞恥ですらも。
 あらゆる個としての感覚は排されてゆき、行為そのものに合理の意味を持たせようとする。
 相手を惑わし操るための自分を創り上げる手順は、同時に、感傷を排除し、自我の防衛を図るためのものでもある。
 どういう顔をすれば。
 どういうふうに手を差し伸べれば、相手の情欲を煽ることができ、男が一番悦ぶのか。
 どういう視線が、どういう声が、相手を陥落させるに一番効果的なのか。そのタイミングですらも。
 その手練手管を自分に仕込んだ男をどれほど呪っても、今、この場において、自然と身に付けた護身術のように、あるいは馴染んだ武器のように、自在に使い こなそうとする。
 抱かれるために創られたこの身体。
 一度たりと望んだことはなかったと思う。けれどどうしようもなく慣れてしまっていること。
 もう今更何とも思わないはずなのに。
 ジューダスは無理に薄い笑みを唇の端に作って見せた。
 そうすることによって、やはり往生際悪く沸き起こる迷いの感情から少しでも自分を遠ざけることができる気がする。
 何も考えることはない。考えている場合ではない。
 今は己に課した選択肢に忠実に、今ここで創り上げた自分を一晩、演じきればいいだけのこと。
 それで全てが上手くいくのであれば、これ以上、何を考え迷うことがあろう。
 ジューダスは用意された絹のローブを身に纏い、浴室のドアを開けた。
         


「こちらに来たまえ。…リオン。」
 意図的に呼ばれるそれは偽名で、その名に象徴されるのは、かつて『捨て駒』として創り上げられた偽りの自分。
 ジューダスは黙ってウッドロウに近づいた。
 見上げる。
 けれど呼ばれるそれがたとえ偽名であっても、この男がその呼称を自分に使いたがる意図は紛れもなく愛と呼ばれるもの。
 ならばせめてこの瞬間だけは、ありのままの自分でいたいと思うこともあるが、やはりその唇の端に浮かぶのは、慣らされ仕込まれた男を誘い込むために計算 された微笑だった。
 そしてそれこそが眼前の男に愛された『リオン・マグナス』という人間の顔だった。
 人形のように意味のないものではあったが、それを見抜き、暴いた男は居なかった。
 一瞬、ウッドロウの瞳が、ジューダスの唇を食い入るように見詰めたのが分った。
「リオン。」
 ウッドロウの声が聞こえた。
 それに従い、条件反射のように殆ど何も考えないまま、己の中に仕込まれたプログラムに沿ってジューダスはその瞳に誘い込む色を湛えてみせる。
 その切れの長い美しい眼と、わずかに伏せられた長い睫が、間近で見るものに対してどれほどの効果を発揮しえるのかを計算に入れて表情を作る。
 ウッドロウは瞳に鋭い光を湛えてジューダスを見詰めたまま、両腕をすっと伸ばし、それはすぐにジューダスの襟元にかかった。
「…?。」
 いつもなら、まず抱きしめて、それから丁寧過ぎるくらいの抱擁と口付けがあるというのに、今日はそれが無い。
 ジューダスは違和感を感じ、その意図を探ろうとウッドロウを見上げた。
 まともな言葉すらも無いままに、合わせられた薄手のローブに掛けられた手が、今度は、ウッドロウらしくもない粗暴さでそれを引き剥がそうとしてくる。
 ジューダスは当惑を押し殺し、やんわりとウッドロウの手を襟元から外した。
「いい。自分でやる…。」
 そう言って、ジューダスは少し、ウッドロウから身を反らすようにして、腰に結んだローブの紐に手をかけた。
 しかしジューダスの指がローブの腰の紐にかかったとき、その腕は乱暴に掴み上げられた。
 引っ張り上げられたときに瞬時に手首に走った痛みの不本意さに思わずウッドロウに非難を込めた目を向けたが、逆に引きずるように腕を強く引かれ、次の瞬 間には、背後のベッドの上に引き倒されていた。
「……ッ。」
 投げ出されたときに背に受けた衝撃に小さく呻くと、すぐにウッドロウがジューダスの身体に乗り上げてきた。
 ウッドロウは反射的に身を竦めるジューダスの襟元を掴むと、その身を覆っていた薄地のローブを裂くかと思われるような力で引き剥がした。
「…っ。」
 途端にジューダスの紫の瞳に驚愕と恐怖とが色濃く映し出されたが、しかしウッドロウはそれを見もせずに、枕もとに腕を伸ばすと、そこから無造作に置かれ てあった絹のスカーフを引っ張り出して、それでジューダスに目隠しを施した。
「…ぁ!。」
 布地を縛るときに瞼が強く圧迫された。一方的に視界を奪われ、ジューダスは自分の目を覆ったその布に指をかけたが、それには力を込められることもなく、 諦め止まる。
「君の瞳が見れないのは残念だが。…たまにはこういうのも悪くないだろう。」
 封じられた視界の向うから聞こえる声は高圧的だった。
 この男が行為に趣向を凝らしたがるのはめずらしいことではない。けれど今、その声は明らかにひどい苛立ちの色で濁っていた。
 ときおりウッドロウは、自分の分からないところで怒りの感情を露にする。
 そしてそれは静かな狂気さながらに変貌を遂げ、そうなると決して好ましくない形で情欲にまみれた抱かれ方をしなければならない。
 ジューダスは本能的に身体を固くした。
 ウッドロウの指が黙り込んだジューダスの顎を捕らえた。
「どういうふうに抱くのも、私の気分次第。…そう、覚悟しているようだね。」
「…。」
 その傲慢な言い様にジューダスは返す言葉を失った。
 そんなことはどうでもいい、好きにしろと、捨て鉢にならないでもなかったが、結局のところ、愛を道具として利用しているのは、むしろジューダスの方であ る。
 たとえこの場で一方的な行為を強いられたとしても、後から苦い思いをしなければならないのは、行為の中に悦楽以上のものを求めようとするウッドロウの方 だろう。
 ジューダスはそう思い、押し黙った。
 ウッドロウは黙り込んだジューダスがすっかり観念したように大人しくなったのを確認すると、拘束の意だけを含ませた程度の力で、ジューダスの脚を掴み、 膝裏から抱え上げた。
 なすがままになっているジューダスに思い知らせるような、ことさらにゆっくりとした動作で、そのまま大きく開かせ、自分を跨がせるような格好をさせて間 に入り、その細い身体に体重をかけて圧し掛かった。
 強いられた体勢の嫌悪感に、ジューダスは思わず顔を横に逸らせていたが、ウッドロウは、そんなジューダスの顎を掴んで強引に正面を向けさせた。
 今度はかなり掴む力が強く、指が肌に食い込み、ジューダスが痛みに小さく呻いた。
 視界も何もかもを封じられ、顔を逸らせることも許されず、ジューダスは仕方なく身体の力を抜いて相手に任せるふりをする。
 そうすることによって、ようやっとウッドロウは満足したようにジューダスの顎から指を外した。
 先程までの暴力に強張った体を宥めるようにして、掌が頬をゆるくなでまわす。
 頬に触れた指が唇に移り、続いて丁寧になぞり上げてくる。ふいに唇を割って指が二本、差し入れられ、ジューダスの舌先に触れてきた。
 差し入れられた二本の指は、ジューダスの舌を弄ぶように蠢き、続いて挟んだり、軽く引っ張ってくるような動きがあり、ジューダスはそれに小さく息を詰ま らせた。
「…今日ね。私のところに、あの青年が来たよ。」
 その言葉にジューダスが途端に反応する。
 ロニだ。咄嗟に思った。あの晩、あんな姿を見せてしまったからだ。
 ジューダスの表情が僅かに曇った。そしてそんなジューダスの表情の変化にウッドロウはすっと眼を眇めた。
「彼は君のことをすごく心配しているみたいで、私は彼から、君のことをもっと考えてほしいと、そう注意されたよ。…私が見るまでもなく、彼は君のことがと ても…、好きなんだね。」
 ウッドロウは半ば残忍な気持ちになってジューダスの耳元に息を吹き込むようにして囁いた。
 ジューダスの身体がぴくんと震え、全身に力がこもるのが抱いた腕を通して伝わってきた。
「…で、彼に君とのことを聞いてみたら、彼、ひどく取り乱してね。」
 声は低く穏やかで、耳朶を甘く噛む愛撫は丁寧ではあったが、おそらくその瞳はそれを悉くそれを裏切っているだろうとジューダスは思った。
「…でも君のことを、大切な仲間だと。そう言っていたよ…。」
 吐息とともに舌が耳を這う感触がある。そこからじわじわと周囲に熱が広がり、皮膚があわ立つような感覚にジューダスはまた、身を竦ませ、声を殺した。
「…ッ。」
 わずかに汗ばんだ首筋をよぎり、舌による丁寧な愛撫が施される。
 右の掌が胸からわき腹の方にまで這わされてゆき、それは緩急をつけて肌をいったり来たりし、身体の線に沿ってなぞりあげていった。
 指先の動きは、皮膚の下の筋組織すらも確かめるような丁寧さだった。
 その肌の反応の一つ一つをゆっくりと煽りたて、一層の官能に導くように、次第次第に濃厚さを増してくる愛撫に吐息で応えながら、それでもジューダスは ウッドロウの先程の言葉を頭の中で反芻していた。
 ウッドロウとロニとの間にどんな会話がなされたのかは、ウッドロウの今日の態度から何となく推測することができる。
 今ごろロニも相当不愉快な思いをしていることだろう。
 あの晩、ウッドロウの部屋から戻ったときにロニに姿を見られてしまったのは、自分の失態だった。
 同じ部屋で寝起きしている以上、どれほど注意を払っていても、自分の行動がロニの目に触れてしまい、それが異様に思われてしまうのも時間の問題だったの かもしれない。
 自分ほど他人に無関心ではいられないロニの性格を考えれば、見られるにしても、誤魔化し通せる手段を用意しておくべきだった。
 そして今日、二人が何らかの話をしたことによって、ウッドロウがロニに対し、『スタンの息子の仲間の一人』以上の意識を持ってしまったのだとしたら、只 でさえ読み難いウッドロウの感情の中に、また余計な雑音が生じてしまうことになる。
 そうであるならば、ロニを巻き込むことだけは避けなければならない。この件に私情を挟むわけにはいかない。
 ウッドロウとのことは、あくまでも独断であり、契約なのだ。
 そう考えを巡らすジューダスをよそに、ゆっくりとウッドロウの掌がジューダスの髪に触れ、それから掌が柔らかく頬を包んだ。
 続いて、額や鼻筋や唇の上を丁寧に指でなぞるような動きがあった。
 ジューダスは黙ったままそれを大人しく受けた。
「…君のことを利用するだけ利用しておいて、結局見捨てるつもりのくせに、よくもぬけぬけと『仲間』だなどと言えたものだ。」
「!。」
 まるで吐き捨てるように言われたその言葉にジューダスが一瞬にして凍りついた。
 ジューダスは自分の頬を包んだウッドロウの手を掴むと、すっと外した。
 ウッドロウは、そのジューダスの表情の変化、そして手を掴んで外す、という、そのやり方に、自分という存在が今、この場において否定されたような気分に なった。
 そして腕に抱いているのは『リオン』ではなく、まるで見知らぬ他人であるかのような錯覚さえ覚えた。  
「僕は、お前のものだと、そう言ったはずだ。さっきから何をそんなに苛ついているのか理解できないな。」
 ジューダスは反射的に冷たくそう言い放った。そしてその言葉のもたらす効果。
 ウッドロウはその不本意さに混乱した。精神を冷静に保とうとしたが、あるイメージに打撃を与えられてしまう。
 そしてその打撃は、自己嫌悪に苛まれると分かっていながらも、昏い欲望に身を委ねるしか無くなるまでウッドロウを追い詰める。
 こんな自分を見せたくはない。
 彼に目隠しをしたことがこんなふうに役に立つものなのかと、ウッドロウは思った。
「君は私のものだと…?。」
 ウッドロウの声は低く抑揚が無かった。
 封じられた視界の向うでウッドロウがどんな表情をしながらこの言葉を発したのか想像すれば身の内に恐怖にも似た感覚が呼び覚まされる。
 けれどこれだけは絶対に後へ退く訳にはいかない。
 混在する迷いの感情も、利用するものが紛れも無い愛と言われるものだとしても。
 今、この場において、己が『リオン』ではなく『ジューダス』として生きているのなら、行動は全て過去のしがらみを排した合理でなければならないのだ。
「ああ、そうだ。お前は、我々の旅の目的を果たすために無くてはならない『協力者』だ。各国の支援を仰ぎ、アタモニ神団を牽制し、神の卵に民衆が混乱しな いように政府レベルで呼びかけることのできる唯一の権力者だ。…そして僕のこの命は、この契約に基づくお前のその信用が続く限りの、『担保』だ。」
 この律儀さ。その身で、その存在全てで散々こっちを惑わせ狂わせるくせに、惜しげもなくその命すら差し出してみせる。
「『協力者』に『担保』に『契約』、ね。…再会を果たすことができて、こんな風に毎晩私の部屋に来て、…君は、それでもこの私に対しても素直になれないの と言うのかい?。私はこんなときくらい、君には本当のことを言って欲しいと思っているのだがね。」
 これがウッドロウの最後の譲歩なのかもしれない、ジューダスはそう思ったが今はそれすら振り切らなくてはならなかった。
「…そういう約束はできない。…それはお前の立場や物の考え方には、色々な側面があり過ぎるということを、よく分っているつもりだからだ。僕がお前の部屋 に通うのは、お前が僕との約束を間違いなく果たしていることを、監視するためだ。そしてその間は、僕は間違いなく絶対にお前のものだ。契約を違えるな、 ウッドロウ。…そうでないなら、今すぐ僕を殺せ。中途半端なことをするならば、僕はお前に用はない。」
 これは取引なんだ。そう冷たく言い放ったジューダスをウッドロウは見下ろした。
 視界を封じられ、組み敷かれたままに言い放つその覚悟は、どれほどのものなのかと。
 思う様それを試してやりたくなる。
「…そう。そうだったね。…確かに君の言う通りだよ。君の命の存在は、私の信用の証そのものだ。そしてその信用のある限りにおいて、私は君の要求に応える 義務を負い、同時に君を自由に扱う権利を持っている。…そういうことだったね。で、私を監視すると言う君の方はそれを証明できるんだろうね?。」
「もとよりそのつもりだ。」
 言い切ったジューダスをウッドロウは残酷に見下ろした。
 この決して何物にも与されない頑なに過ぎる精神は、手に入れられないのなら、いっそ原型を止めないほど壊してしまうしかないのかもしれない。
「なら君、今、この場で私に『犯してください。』って言ってごらん。」
 まるで別人のような自分の声をウッドロウは聞いた。
「…。」
 挑むような口調で言い放たれた残酷な言葉にジューダスは、ぐっと黙り込んだ。
「さあ、どうした。君は私のものなんだろう?。君は私に高い代償を払ったものだと、そう思わせたいのかい?。」 
 ジューダスは、その低い抑揚を殺した声を、おどろくほど近くで聞き、そのときになってウッドロウが自分の耳に唇を寄せているのだということに気づいた。
 もはやウッドロウは、ジューダスを追い詰めることに苦い悦楽を感じていた。
 ジューダスが『僕はもうリオンではない。お前の知らないジューダスだ。』そう言ったように仮定してしまえば、どこまでも残酷になれるような気がしてい た。
 シーツを固く握り締めるジューダスの指先は白く、小刻みに震えているのが分かる。 
 けれどそれすらウッドロウの昏く濁った欲望の前には無意味だった。
「…僕、を、…。」
 呟くようなか細い声で、それでも懸命に服従の言葉を紡ごうとする唇を、ウッドロウは指で制した。
「…いいよ。これではまるで私が無理やりに君を抱いているようだからね。ここに来てもらっている以上、君にも色々とその気になってもらわないと、興が醒め るというものだろうよ。それに…、私もこの契約で損をしたくない。」
 恥辱に凍りついている少年の身体を、思うさま情欲の炎で染めてみたい。
 そうウッドロウは考えていた。












 To be continued…








2004 0302  RUI TSUKADA




 美少年を情欲で染めたい王様が暴走気味になってくる。
 好きなコを毎晩抱いても、そのコは抱かれながら、実はえらく冷めている。
 男としてこれほどカナシイことは無いって思うんだが…?。
 なにはともあれ髭王×坊の後 編に続く。
 後編は結構、いわゆるヤりっぱなしというやつです。多分、まじにR18。
 書いている本人は、何十回と書き直すので、どこがどうやばいのか分からなくなっているのですわ〜。


 次回
 束縛的記憶(6)
 髭王×ジューダス。H後編。も〜、ヤケッ!。