『束縛的記憶(4)』 







「つまり、もう彼には会うな、とそう言いたいんだな、君は。」
「ウッドロウさん、…あいつは『ジューダス』であって、『リオン・マグナス』ではないんです。ウッドロウさんだって本当は分かっているんでしょう。18年 も前に死んだ『リオン・マグナス』が当時のままの姿でいる訳がないってことくらい。」
 思わず声が荒くなってしまったロニに、部屋の隅に立っている数人の警護の兵が厳しい目を向けた。
 ウッドロウとロニの間の空間に、一瞬、かなり気まずい緊張が走ったが、ウッドロウは表情を少しも変えず、周囲の従者に目配せをして人払いを指示した。
 それに従い、従者たちは警護の者達と静かに部屋を出て行き、扉が重く閉ざされ、謁見の間はロニとウッドロウの二人きりになった。
 少しの間をおいて、ウッドロウが玉座から立ち上がり、段上からロニを見据えた。
「いまさら取り繕っても無意味のようだ。この際、本音を言い合おうじゃないか。」
 いいね?、とウッドロウはどこか陰気な微笑みを湛えて余裕たっぷりにそう言った。
「…わかりました。」
 ロニはそう低く返答したものの、本当の気持ちとしては、言い争いに来たつもりはなかった。
 ただ、理由を聞いて、できればジューダスのことを、もう少し考えて欲しいと、そう頼むことができれば、そう思っていただけだった。
 できるだけ穏やかに話を終わらせたかったが、話題がジューダスのことである以上、所詮、当たり障り無く会話を終わらせることなど、到底無理なことだった のかもしれない。
 結局こうなってしまったな、とロニは苦々しく思った。
 しかし、こうなった以上、こちらとて曖昧には済ませるわけにはいかない。
 むしろ言い分があるのはこっちの方だ。望むところだと、思い直し覚悟を決め、内心を押し隠して意識して表情を抑えて自分を見下ろすウッドロウを見返し た。

 間近で見るとウッドロウは、男の自分から見ても確かに魅力のある容貌の持ち主であるとロニは思った。
 こころもち年齢よりも歳をとってみえるが、それでも生来の容色はいささかも損ねられることはなく、むしろ歳を重ねたことによって深みのある男らしさを増 していると言っていい。
 非のうちどころのない容貌。完璧な経済力と生活環境を持っている男。
 そして国王という高い身分や、それに伴う権力が、年齢による衰えと、まったく無縁のところに居ることを許されているようにすら感じられる。
 そしてそれは、ウッドロウのような生まれたときから特権階級に属していた人間から見れば、ちっぽけな取るに足らない存在に過ぎないであろうロニを威圧す るに充分だった。
 現実としてジューダスと関わった年月。たったそれだけを取って考えてみても、二人には明らかな差がある。
 自分は、この旅の間のジューダスしか知らない。そしてそのジューダスの正体を知ったのも、つい最近のことである。
 当の『リオン・マグナス』と深く関わっていたウッドロウから見れば、自分は明らかに部外者、第三者だった。
 おそらく今まさにウッドロウもそう思っているに違いない。
 ロニは、そう考えを巡らしながら、両の拳を握り締めた。

「君は彼のなんだ?。」
「仲間です。」
 問いに対して即座にきっぱりと言い切ったロニを、ウッドロウは、ふ、と含み笑って見下ろした。
「仲間、…ね。」
 ウッドロウは段の上からロニに観察の視線を投げかけた。
「…なるほどね、君か。彼の今のお相手と言うのは?。彼から聞き出したときには正直言って驚いたね。なんでよりにもよって、こんなただの青年と、って ね。」
「な…!。」
 ロニは急に差し向けられた言葉の棘の前に言葉を失い立ち尽くした。
 そして、いまや、はっきりとそれが敵意であることを察した。
「君、少年を抱いたのは、彼がはじめてだろう。」
 言い方が挑戦的だった。
 ウッドロウはロニより少し背が高い。そして玉座の段がある分、ロニはウッドロウを見上げなければならなかった。
「……。」
 ロニは無言のまま、もう一度左右の拳を握り締め直した。
 無言で居れば、それはそのまま質問に対する肯定になるであろうが、こんな質問に答えたくなかった。
「やはりな。それもカルバレイスの片田舎で、まるで事故のように一度だけ、だったね。」
「……!。」
 ロニは、立ち尽くしたまま、かあっと顔が熱くなるのを感じた。
 部屋の暖房が利きすぎているわけでもないのに、背中に汗が滲んできた。
 投げかけられた言葉を頭の中で反芻すれば、湧き上がってくる理不尽な怒りに握り締めた左右の拳が震えてきた。
 しかしそんなロニを意にも介さず、ウッドロウは続けた。
「だが彼は違う。これまでに私を含め、他にも『リオン』の虜になった男が、それこそ何人いたか、君には想像もつくまいね?。」
 もはや明らかに悪意を露わにした言い方に、ロニはすぐさまこの場を立ち去りたい気分になったが、話はまだ何も終わっていない。
 言いたいことがあったはずだ。ロニは懸命に言葉を探したが、続けざまに沸き起こる怒りと狼狽を押さえ込むのがやっとだった。
 せめてひどい動揺を悟られまいとして、段上のウッドロウを懸命に見返した。
「あいつを傷つけるような言い方、やめてください!。」
 強く言ったつもりだったが、どうしても声が震える。
 自分ばかりかジューダスにまで向けられた侮辱にロニは冷静さを失っていた。
「わからないかね。君のような経験の浅い若者と、あれほどに過去多くの男の寵を受けていた少年が関係をもつなど、どれほど喜劇的なものか。」
「……。」
 あまりの言葉にロニは絶句した。
 しかしウッドロウはあいかわらず、口元に暗い笑いを滲ませている。
「まあ、彼もあれで演技力がある方だから、君の自尊心を傷つけないように、ちゃんと優しいセリフでも吐いてみせてあげたんだろうね。…だがね、実際には滑 稽だったろうさ。彼にとっては。」
「…。」
 徹底して馬鹿にされていた。おまけに少しも悪びれた様子もない。
 ロニは奥歯を噛み締めて耐えたが、数段高い位置から他人を見下ろして、過去の『リオン』の話をもちだして優位性を強調するウッドロウの演出は嫌味なほど 効果的だった。
 この人は『ジューダス』として認識してない。あくまでも『リオン』なんだ。
 こう思い至った途端、ロニは自分の中に凶暴な怒りが水位を上げてくるのを感じた。
 『リオン・マグナス』の死に直接関わった四英雄の一人。
 それがあろうことか、今現在、『ジューダス』として生きている彼を拘束し、それを『リオン』であると言い張り、当然のことのように振舞っている。
 ロニは無理にウッドロウから視線を引き剥がし、今にも暴発しそうな怒りを何とか押さえ込んだ。
 細かく息をついで気を静めようとする。
「…ウッドロウさんはいつからあいつが『リオン』だってことを。」
 俯いて、怒りに上ずった声を懸命にごまかそうとするロニをウッドロウは唇の端で嘲った。
「最初からさ。君たちがカイル君を『英雄スタンの息子』だと言って謁見に来て、その後、…エルレイン達の襲撃を受けて、彼が駆け寄ってきた。…彼もうかつ だったな。いくら素顔を隠したとて、あんな内から強い光を発するような正体を、この私に隠しきれるはずがないのに。…彼が一人になったときに問い詰めたら ね。認めたよ。」
 ほぼ予想通りの答えに、ロニは、く、と唇を噛み締め、そして、本題はここからだ、と小さく息を吸い込んだ。
「あいつをどうする気ですか。」
「ここに引き止めるさ。せっかく再会したのに、今度は手放す気はないからね。そしてずっと私の傍で暮らして貰う。『リオン』でもなく、もちろん『ジューダ ス』などという、冗談にもならない名を与えられた人間でもない。全く別の人間として生まれ変わるんだ。私はこの国の王だ。それくらい造作もないことだ。」
「あいつがそれを望むとは思えない!。」
「それはどうかな。リオンは…、私が君たちに協力する代償として私に抱かれているつもりでいるらしいからな。それに。」
 ウッドロウはロニの方に一歩踏み出して、ロニの眼を覗き込むようにして見下ろした。
「それに彼にとってもそちらの方が幸福であると言えなくはないんじゃないかね。少なくとも君たちといる限りは、彼の存在自体が彼自身のものですらない。リ オンは自分の『半身』ですら提供したんだ。彼にはもう何も残っていない。君たちのために失ったんだ。…君たちは、そういうことを少しも考えもしないみたい だがね。」
 それは違う!、ロニは咄嗟にそう思った。
 シャルティエを失ったときのジューダスの寂しげな姿は何度も見たし、それはメンバーの誰もが到底平静のまま見ていられるようなものではなかったと思って いる。
 プライドの高いジューダスは絶対人前で弱みを見せようとしないが、いっそ泣いてくれたらどれだけ楽だと思っただろう。
「ジューダスは俺たちの大切な仲間です!。」
 懸命に食い下がったロニをウッドロウはなおも見下ろし、含み嘲った。
「君たちが必要としているのは、リオンの能力だろう。どれもこれも君たちとは到底かけ離れた世界に属していた彼のすばらしい力だ。…彼は彼のお父上が創り 上げた芸術品なんだよ。」
「……。」
 その言葉にロニは怒りで頭がくらくらしてくるのを感じた。
 『リオン・マグナス』の父親。『ヒューゴ・ジルクリフト』。
 精神世界で過去を知ったとき、『リオン・マグナス』は実の父親に脅迫されて命を投げ出していた。
 『有能な捨て駒』として育てられたことを知っておきながら、そしてその『リオン・マグナス』の最期に直接関わっておきながら、それを創り上げられた芸術 品だと、そう言いきったウッドロウをもはやロニは到底許せないと思うところまで追い詰められていた。
 しかし、そんなロニの表情を冷ややかに見下ろして、ウッドロウは続けた。
「君たちはリオンを当てにして、彼から搾取してばかりだ。これ以上、君たちは彼から何を奪うつもりだね。いい加減にしたらどうかね。…君は私に彼のことを もう少し考えて欲しいと、言いたくてここに来たのであろうが、彼のことを少しも考えていないのはむしろ君の方じゃないか?。…悪いが私は違う。彼がたとえ あの素晴らしい剣を振るえなくなったって、彼だけを愛し続けられるさ。」
「…まさか!。」
 『剣を振るえなくなる』そこを強調されてロニは一気に気色ばんだ。
「安心したまえ、私は彼に傷をつけるようなことはしないよ。」
 明らかにからかっているのであろうウッドロウに、ロニは言葉を失って黙り込んだ。
 もう、頭の中が混乱して、何をどう言えばいいのか分からなくなってきた。
「……。」
 双方が言葉を途切らせると、重い沈黙があたりの空気を澱ませた。
 ひどく居心地の悪い、呼吸すらも思うようにならない、何かがこまかくふるえながら凝固していくような沈黙だった。
 この謁見の間は天井がひどく高く、大理石の壁に囲まれているせいで外部の音はまったく伝わってこない。
 扉のすぐ外には警護の者が何人も居るのであろうが、重く厚い扉で閉ざされているため、その気配すらも伝わってこなかった。
 部屋の隅にある暖炉の薪がもえるパチパチという乾いた音が妙に大きく聞こえていた。
「…話はまだ、続きそうだね。とりあえず、座ってくれたまえ。ああ、何か、飲むかね。あいにくここには、これぐらいしか置いてないけど。」
 意図的ではあるが、声を明るくしてそう言って、ウッドロウはテーブルの上に酒瓶とグラスを二つ、置いた。
 ウッドロウの言葉を受けて、ロニは用意されていた謁見者の座にとりあえず腰を下ろした。
 けれど何かを口にする気になど、とてもなれなかった。
 だが、勧められた杯を断るのも、まるでうろたえた内面をそのまま晒すようで、あまりにもみっともないと思い直し、黙ってうなずいた。
 慣れた手つきでブランデーを繊細なつくりのクリスタルグラスに注ぎいれるウッドロウをロニは黙って見ていた。
 その目で、その手で、そして今、明らかに悪意のある優越感の笑みをうかべたその唇で、あのジューダスをいいようにしたのである。
 そう思うと、改めていいしれぬ怒りの感情が身体の奥にうずまくのをロニは抑えることができなかった。
「…俺はいいですけどね。あいつに酒、飲ますのやめてくれませんか。」
 さすがに声に抗議するような色が混ざりこむのをどうしようもない。
 差し出されるグラスを受け取るために、ロニは玉座の段の下まで歩み寄った。
 グラスを受け取ったとき、ウッドロウの服の袖のあたりから、高級そうなコロンの香りが漂った。ロニはその香りを激しく嫌悪した。
 受け取ったグラスの中でゆれる酒を見ていると、昨夜のジューダスの苦悶に染まった表情が思い出され、言い様もなく不快な気分が込み上げてくる。
 ウッドロウがちらりと視線をこちらを向けたが、ロニは席に戻らず、その場で続けた。
「あいつ、あれでまだ全然ガキなんですよ?。昨日なんてベロベロに酔っ払って帰ってきて、…髪まで酒で濡れてるし、それに…。」
 言葉を途切らせたロニを、ウッドロウは含み笑った。
「その通りだ。飲ませたのは酒だけじゃないんだよ。」
 ロニは足元がぐらりと揺れたように感じた。
「『アレ』には少々身体の感覚を狂わせる成分が入っていてね。具体的には、皮膚がひどく過敏になるのと、あと、精神的にひどく不安定になって、恐怖心を煽 る効果もある。」
「……。」
「うらやましいかい?、淫らに喘いで、助けて欲しいと泣きながら懇願し、乱れまくる彼を一晩中、いいようにできる私が。」
 そう言ってウッドロウはグラスの酒を一気に飲み干した。
 ロニは怒りのため、頭が真っ白になり、もはや立っていられないような錯覚を覚えた。
 
 


 ##

 よくもまあ、あれだけ頭に血の昇った状態で、謁見の間からこの客室まで、たどり着けたものだとロニは思った。
 その証拠に、謁見の間でどうやってウッドロウの前を辞したのか、そこからここまで歩いてくる間に何を見たのか、全く記憶に残っていない。
 けれど、今、現実の問題として、怒りにかまけてばかりいてはいられない状況が目の前にある。
 ロニは何とか自分の煮えくり返ったような腹を鎮めようと、無理に息を大きく吸い込んで、それを思い切り吐いて、それからやはり我慢できずに拳を散々振り 回した。
 さすがに城の客室の中で怒鳴り散らしたり、物を壊したりするようなことはできなかったが、かなり暴れたのでようやっと頭が冷えてきた。
 ロニは荒く息を継ぎながら、何とかまともに思考をめぐらすべく、ウッドロウの言葉を思い起こしてみた。
 ジューダスがウッドロウの部屋に通うのは、ウッドロウのファンダリア王としての権限を借りるための取引のようなものであると、そう、言っていた。
 事実、イクシフォスラーや各地での優遇や理解、宿泊設備、経済的な支援など、もはやウッドロウの存在は、おそらくこの旅に無くてはならないものとなって いる。
 四英雄としての純粋な善意。そう思っていた自分が無性に腹立たしい。
 何より、夜半、疲れきって部屋に帰ってきたジューダスの姿を思うと、言い様のない不愉快さがこみ上げてくる。
 しかし、こればかりはどう対処したらよいかわからない問題だった。
『引き止める。』ウッドロウは、確かにそう言った。
 ジューダスが身を投げ出してウッドロウに、この旅の目的を果たすための助力を要請し、ウッドロウはそれを請けているのであるから、それが本心かどうかは 疑問だった。
 だが、嘘ではないと思わせるに充分な気迫があった。
 ウッドロウはジューダスを完全に『リオン』として認識しており、先程のウッドロウの口ぶりから言っても、二人はかなり個人的な付き合いをしていたことが 窺える。
 再会した『リオン・マグナス』が、この世界の歴史を修正するために行動している、などということはウッドロウにとって、さぞかし異様に見えるのだろう。
 からかわれているだけではないとすれば、これは何とかしなければならない問題だった。
『少なくとも君たちといる限りは、彼の存在自体が彼のものですらない。』
 こう言われた瞬間、畜生、と、腹の中でつぶやきながらも言い返す言葉が見つからなった。
 ジューダスは大切な仲間。
 ジューダスはこの旅に欠けてはならない存在だった。
 けれどそのジューダスは自分たちと行動を共にすれば、確実に終焉に向かうことになる。
 完全に自分はウッドロウのペースにはまり、手の内で転がされているかのようだった。
 年齢の差か国王という身分に気おされているせいか。それともどこかウッドロウの言葉に同意しているのであろうか。
 しかしカイル達といるときには、ジューダスのことを『ジューダス君』などと呼ぶくせに、さきほど自分と二人で会話した途端、呼び方は『リオン』になっ た。
 そんなことを思うに、まるで自分との立場の違いを見せ付けているようで不愉快だった。
『少年を抱いたのは、彼がはじめてだろう。』
 ホープタウンで一度だけ、自分と抱き合ったジューダスの姿が思い起こされる。
 あのときは、本当に、その場の雰囲気に流されるようにして抱いてしまった。
 不慣れだったため、無理をさせて、ジューダスの身体をひどく傷つけた。
 けれどそんな一夜の行為など問題にならないくらいに、自分にとってはジューダスは、仲間として大切な存在となってしまったのだ。
 これだけは譲れない。やはり絶対に好きにさせるわけにはいかない。
 過去恋人であれなんであれ、ここに残ることがジューダスの本意であるとは思えない。
 ジューダスに対して思い入れれば思い入れるほど、ウッドロウへの憎しみは募る。
 ウッドロウは、もはやジューダスへの信頼や友情の前にたちはだかる大きな壁、もっとはっきり言ってしまえばこの旅の続行すら妨げる障害だった。
 いずれにしても、ウッドロウと交わした言葉の一つ一つを反芻してみると、間違った方向にしか行かないような予感がするのだ。
 気分がいらいらして落ち着かず、わけのわからない感情の嵐がざわめきたつ。
 そして、得体の知れない何かが、ささやき続けるのだ。
 ジューダスをあいつから引き離さなければ。
 けれどウッドロウの方は、どうやら完全にジューダスを『リオン』として扱い、手放す気はさらさら無いらしい。
 あとはジューダスの方であるが、こちらもジューダスが目的をもって手段を選んでああしている以上、言葉で説得するのは到底困難だろう。
 八方ふさがりになってロニはベッドに横になり、不愉快に頭をなやませながら無理に眠りにつかなければならなかった。
 




 その晩の眠りはひどく浅く、夢をみた。
 ジューダスがやはり深夜に部屋に帰ってきた。
 ひどく疲れきっていて、片足を引きずり、壁に手をついて這うようにして歩いている。
 支えようと駆け寄ったとき、倒れ込んだジューダスの姿を見ると、右足首の筋が切られていた。
 引きずった血の痕が生々しく床を染めている。
「ジューダスッ!」
 叫び、身体を抱き起こそうとすると、背後に人の気配がした。
「リオンはもう走れないよ。これで君達には不要になるんだろう?。」
 所詮、君達はその程度なんだ。そう言ったウッドロウは勝ち誇った笑みを唇に浮かべていた。

 明け方近くに目をさましたとき、背中は冷や汗でびっしょりだった。
 隣のベッドの方を見ると、ジューダスはまだ戻っていなかった。
 もう、一晩中も帰す気がなくなったということなのか。
 ロニは絶望的な気分の中に殺意さえ感じていた。










 To be continued…








2004 0222  RUI TSUKADA



 
髭王VS兄貴でした。
 地の利、歳の差、立場の差。
 ハイデルベルグ城で口げんかするのは兄貴は圧倒的に不利だよ〜。
 髭王がいぢわるですが、書いてる本人は、髭王もロニもどっちも好きなんだよ〜。
 
 今回の寝不足:男三人全員(ロニ:不眠気味、髭王:お愉しみ、ジューダス:オモチャ)
 
 それにしてもここまで長々書いておいてHナシとは情けない…。

 という訳で次から2回かけて髭王×坊。
 特に後半はアレなので、R18な!。

 次回
 束縛的記憶(5)
 髭王×ジューダス。H前編。