『凶 暴な恋愛』 


 ジューダスとベッド・インして以来、ロニは落ち着かない日々を、最近回数のやたら増えた、ため息とともに過ごしていた。
 ロニは面食いである。
 けれどこれに関して文句を言われる筋合いはないとロニ自身断言できた。
 なぜならこれは、男にとっての必要かつ重要な本能に従っていた結果である、という自負があるからだ。
 出所不明の女性崇拝は、結果、見境なしに声をかけまくるという奇癖へと通じるわけであるが、恋人や妻にするのは絶対美人と決めている。
 美女の競争率は高くて当然であり、それに苦難が伴うのもまた当然である。でもって、神は自ら助くるものを助く、であるのだからして、行動を起こさぬ者に あれこれ言われる筋合いはない、ってワケだ。
 しかし今回ばかりは、その自慢の面食いが仇になった。
 よ りにもよって、…男に。
 それもかなりいけすかないタイプに、のめり込んでいる自分がいる。
 うっかりその憂いた素顔にぐらっと来たらもうだめだった。
 その最初の印象があまりに強烈だったせいで、そのあとはもう、ジューダスの仕草、後ろ姿、横顔。どれもこれも気になって仕方なくなった。
 とにかく色っぽい。いや、この言葉を男に使っていいかは分からない。というか使いたくない。
 けれどそんな従来の常識を軽く破壊するくらいにジューダスの色気は非常識の領域だった。

 ところでロニがジューダスとベッド・インしたのは事実であったが、これは決して双方同意の結果ではなかった。
 あんまり裕福とは言えない旅の財布事情と相談しての、部屋割りの都合で、二人部屋の同室となったときに、ロニがほとんど無理やりにコトに及んでしまった のである。
 無理やりと一言でいっても、相手は男で、しかもあの凶暴で凄腕のジューダスであるのだから、当然そう簡単にはいかなかった。
 真正面から挑もうとすれば、あの見事な反射神経でかわされ、手ひどい返り討ちに会うことは目に見えている。
 そうなった段階で「ゴメンネ(にこ)」ですまされる相手ではないし、「冗〜談!」などと言おうものなら、それこそ冗談でなく本当に殺されるかもしれな い。
 というわけで、一発勝負に出たのだ。つまりは不意打ちを仕掛けたのだ。
 夜、宿の部屋で二人きりになるや、無防備に向けられた背中に、なるべく邪気を消して(殺気がこもるとジューダスはすぐに気付く)接近し、速攻で覆い被さ り、そのまま抱きすくめた。
 いくらジューダスとて、ここまで油断しているところを急襲(?)されたのでは、どうしようもないだろう。
 そしてそのとおりに、体格差を生かした卑怯な作戦は、単純でありながらも効を奏した。
 先ず背後から覆い被さると同時に腕の自由を奪ってしまい、怯んだところを今度は腹筋を総動員して抱え上げるようにして、脚の踏ん張りを効かなくする。そ してそのままベッドにもつれ込んで押し倒した。
 抗議の声を上げる時間すら与えない。殆ど犯罪だ。
 ベッドに投げ出され、上から圧し掛かってくる男の身体を押しのけようと、懸命に抵抗する細い身体を無理やりにぎゅうぎゅうと押さえつける。
 ここまで体重差があると、いくら凄腕剣士とてどうしようもない。
 実際、抵抗を封じる動きは後で考えてもおそろしいほどに計算ずく(?)であったが、このときどれほど雑多な思考がロニの頭の中にあったかは疑問である。
 正直言って、目の前にある服の中味のことで頭が一杯だった。
 ボタンをはじき飛ばすかのような乱暴さで服を捲り上げ、掌を差し入れて、強引に肌をなでさすった。
 当然嫌がってジューダスは相当暴れたが、こっちも怯んでられなかった。
 膝を使って脚の間に自分の身体を割り込ませ、下肢の服を剥ぎ取るようにして引き摺り下ろし、そこを乱暴にさすり上げると、ジューダスは息を詰めて身を固 くした。
 力で押さえ込まれた上に服を剥ぎ取られて、唇を噛み締めて顔を逸らすジューダスに、少しだけかわいそうな気にもなったが、ここまで切羽詰ると、そんなも のは到底欲望の力に勝てるものではなかった。
 指を使って強めに刺激を与えると、すぐに身体が反応した。
 非常事態であるにもかかわらず、ああ、やっぱこいつも男なんだな、と妙に感動し、構造を知りつくした身体を煽り立てるのは、とりあえずにおいて簡単だっ た。

 夢中で抱いてしまったので、最中にどんな顔をしただとか、どういう風に声を出したかだとか、そういう細かいことは、もったいないことにあまりよく覚えて いない。
 けれど終わったあと、血の気を失ったように青い顔をしてシーツに横たわるジューダスを見たとき、さすがに気が咎めた。
 何しろ、ジューダスの身体を無傷で済ませるような、準備もしなかったし、対策も無ければ、ついでに本人の技術もなかったわけで…。
 いわゆるその場の勢いしかそこにはなかったわけで…。
 頭が冷えれば、これはおそらく最低の部類に入ることをしたのだということが容易に分かる。
 今更だがどうしよう…。相当、気まずい思いをしなければならないと覚悟した。
 もしかしたら腕、へし折られるかも、とか…。あるいはもっと恐ろしいことに。
 けれど。
 拍子抜けするくらいに全然何もかわらなかったのだ。
 嵐のような一夜を明けた、その朝ですらも、先に起きてすっかり身支度を整えていたジューダスは、こっちを無視するようなことはせずに、朝のミーティング に行く際、ちゃんと起こしてくれた。
 愛想の無さも普段通りの範囲内。特段変わったところもない。
 もしかして昨夜のアレは、夢だったのか。などと思ってみたものの、乱れたシーツの痕跡とか、使った形跡のあるシャワーとか。そこかしこに昨夜の熱が現実 だった証拠が残っている。
 ひょっとして許された?。とも思ったが、その考えは甘かった。
 それ以来、ジューダスは明らかにこっちを警戒しているのである。
 宿では大抵相部屋で、同室で寝起きすることになるのに、全然スキを見せないのだ。
 元々、技巧派スピード派のジューダスの、そのかわし方は見事という他はない。
 二人きりの時間を極力減らそうという、基本を律儀に踏み、それから食事、風呂、会話。とにかくこちらの意図をかわすタイミングは絶妙だった。
 夜も更けて、そろそろベッドに入るのが気になる時間になると、話し掛けても、するりとかわしてとっとと先に寝てしまう。
 しかもジューダスは見かけによらず、かなり寝つきがよかった。
 いや、それは演技なのかもしれないが、とにかくすうすうという健やかな寝息を立てている背中に声をかけて、わざわざ起こすのも気が引ける。
 しかもそれらがおそろしく自然体なものだから、ジューダスがロニを警戒している、なんてことは他のメンバーに気付かれるはずはない。
 そのへんのフォローが上手すぎるのだ。ジューダスがただものではない、というのは、こういうところにも発揮される、と今更ながらに痛感する。
 けれど分かる。当事者には。
 ジューダスは絶対背後を見せなくなった。そう言えば、ここのところ全然ジューダスの肌(へんな意味でなく)を見た記憶がない。つまり着替えは、自分が部 屋にいないときを見計らって済ませているということになる。
 これが警戒でなくて何であろう。
 極めつけに、宿の部屋にある、気に入りのカウチで寛ぎ、読書などをしてるときですら、その身体の横には常に愛用の剣が置かれているではないか。
 おそろしい。何かしようものなら斬りつけようとでも言うのか。
 そしてその『何か』ってのは、まさに。それのことではないであろうか。
 …つまりはそういうことだ。
 ついに、ついに。つらいつらーい片想いに突入してしまったのだ。
 男相手に。しかも嫌われていて泥沼状態だ。強姦してしまったという決定的な負い目もある。
 ああ、一度失った信用は修復するのにどれくらい時間がかかるのでしょう…。
 ロニは猛烈に天の神様に縋りたい心情だった。正直に言おう、あやまりたいんです。仲直りしたい。この生殺し状態どうにかしてくれ。
 それぐらいにもう、自分はジューダスに夢中なんだ。ベタベタに惚れてしまったのだ。
 あのほっそりとなだらかな曲線もあらわに寛いだ姿で本を読む綺麗な横顔。傍らには凶器。
 惚れた相手と二人きりの空間で「半径2m以内に近づいたら斬る。」などと無言で宣言されている状態が、男としてどれほどツライか、お分かり頂けるだろ う。
 



 ##

「ロニ。」
 ……ああ、呼ばれるのが自分だけであったのなら。
「ロニ!。」
 ……カワイイ顔に似合わず、けっこうドスのきいた低い声も好みだ。
 けど『あのとき』はもっとカワイイ声になるんだ。…よく、覚えていないけど。
 ああ、自分はつくづく重症だ。
「おい!。」
「うわ、はははははい!。」
 我ながらみっともないほどうろたえて声の方に振り向いてみれば、そこには見慣れた仮面顔…。
「何をそんなにうろたえているんだ。」
 誰かのことを考えていました。
「…はは。何でしょう、ジューダスさん。」
 ジューダスが怪訝な顔をしてジロジロ覗き込んでくるが、当人結構冷や汗ものである。
「…変な奴だな。まあいい。今日、カイルと部屋を替わってくれないか。」
「へ。」
 つまり、隣のシングルの部屋にいるカイルと部屋を替われと。
「カイルが何か、僕に話があるらしい。悪いが一晩、カイルの部屋に移って欲しいんだ。」
 何。
 つまりカイルがこの部屋でジューダスと一夜を共にすると。
 うぬう。カイルめ。実はジューダス狙いだったのか。いや、以前からそうではないかと思ってはいたが。
 きっとカイルも美人が好みなんだ。いやそうに違いない。ガキの時分からこの面食い様がことあるごとに「美女が〜美女が〜。」と聞かせ続けてきたのだ。サ ブリミナル効果が発揮されていても不思議はない。
 それにきっとおそらくルーティさんを女の基準値に据えているんだろうから、その面食い度は年季が入って筋金入りだ。しかもツクリでなく天然純粋培養だ。
「僕がカイルの部屋に移ってもいいんだが、あっちにはベッドが一つしかないんだ。」
 何〜!!。
 ベッドが一つ。つまりあっちの部屋にジューダスが行けば、必然的に夜は一つのベッドでカイルと寝なければならないということではないか。
 冗談ではないぞ。
 ジューダスの寝顔を至近距離で見て、理性が保てる男がいるだろうか、いやいない。いやいやいやいや。反語の話はさておいて、自分だって気付いたのは最近 だ。そう!、問題は、気付くか、気付かないか。その違いだけなのだ。
『ジューダスの寝顔は常識はずれに色っぽい。健康な男ならおかしな気を起こすであろうほどに。』
 カイルと自分は、カイルがヨチヨチ歩きのことから一緒にいたし、オネショ布団も見たし、転んでわあわあ泣くカイルをおぶってやったことだってある。
 けれど子供子供と思っていても、現在カイルは15歳。若い男だ。
 それに15歳と言えば、自分はそれなりにすでにちゃんとしっかり男だったような気がする。
 だとしたらカイルが上記事項に気付かないとは言えない。いやおそらく確実に気付くだろう。
 それだけは何とか食い止めねばならない。
 つまり、そうと気付かないで済む確率の高い方、つまりはシングルでなく、ツインの部屋にお泊りいただくこと。それが今現在における最良の選択なのだッ。
「駄目なのか?。」
 怪訝そうに覗き込んでくる、その大きな紫色の瞳は仮面越し。
 対ロニ専用バリアーに思えてくるから情けない…。 
「ああ。いいぜ。」
 内心のヨコシマをさわやかな笑顔で必死に隠す23歳。
「そうか。すまないな。」
 ほんの数日前にレイプされたにもかかわらず、普段とかわらず振舞うポーカーフェイスは16歳…。
 負けている。というか勝てっこない…。





 ##

「どうすればいいんだろう、俺、どうやら本気で…みたいなんだ。」
「カイル。」
 ロニは部屋の建てつけクローゼットの中(ここが一番、隣室との壁が薄い)に入り込み、奥の壁にぴったりと耳をつけて息を潜めて聞き耳をたてていた。 
 安宿だから隣の音はツツヌケ、なんてことはないが、このクローゼットの奥の壁に耳をつけた状態なら、隣室の音が伝わってくる。
 会話内容はぎりぎりやっとのことで聞き取れる程度ではあるが。
「…どうやって、…ればいいのか。俺分からなくて、だから。こうしてここに来たんだ。」
「…心配するな。僕は……、と思う。」
 元々トーンの低いジューダスの声は壁越しでは聞き取りにくい。いっそこの壁、破壊したろうか、などと物騒なことを考えてしまう。
「…どう、言えばいいのかな。」
 隣室で人が動く気配がする。
 ああ、何をやっているんだ。二人きりで。
「そうだな。まず、焦らないで、…そんなに……で、とりあえずは…。」
 ちくしょう、肝心の部分は全く聞き取れていないではないか。
 何を話しているんだ。気になる気になる〜!。
 
(以下ロニの妄想 注:妄想なので別人。)

『あのさ、どうすればいいんだろう。俺、ジューダスのことがどうやら本気で好きみたいなんだ。』
『カイル…。』
『この気持ちをどうやって、始末つければいいのか、俺、わからなくて。だからこうしてここに来たんだ。』
『心配するな。僕は、お前の気持ちも、お前の背負った重い役割も、分かってやれると思う。』
『ジューダスが俺にすごく親切なのは分かるよ。俺、いっつもジューダスに助けられてばっかりだよ。でも、…どう言えばいいのかな。もう、そんなのじゃ満足 できないんだ。』
『カイル…。』
『どうしてジューダスなのか、って思うよ。だって、ジューダスは男で俺も男で、言ったら絶対嫌われるって分かってるのに。…最初は、強くてかっこいい な、って思ってただけだったのに。それなのに…。初めて仮面をはずしたとき、あんなつらそうな顔、見せれられたら、俺、…もうやばかった。そうだよ、守り たいって思ったんだよ。この俺が!。おかしいだろ?、笑っちゃうよね。だってジューダスの方が強いし、頭だってずっといい。だから俺、いつかジューダスを 守れるくらいのいい男になろう、って思ったのに、ジューダス、この旅が終わったら、きっと居なくなっちゃう。ジューダスは、俺が父さんの息子だから、スタ ンの子だから一緒に居てくれただけなんだろ?。…畜生、畜生ッ。…俺がやってることの目的がちゃんと達成されたら、その結果、どうなるかなんて、本当は とっくに分かってるんだ。俺、ジューダスにいなくなって欲しくない!。けど、もう時間が無いんだ、…そんなの絶対嫌だ、嫌なんだ。…はっきり言うよ。俺、 ジューダスが欲しいんだ。もう、どうすればいいのか分からないんだ!。』
『……。』
『…ごめん。軽蔑しただろ。』
『カイル。お前そんなに思いつめていたんだな。だけど、ありがとう。お前に想ってもらえて僕はうれしい。…お前さえよければ、僕は…。』
『え、本当に!、本当に、俺にジューダスをくれるの。』
『そうだな。まず焦らないで、部屋の明かりを消してくれ。そうしたら、 こっちに来い。そんなに緊張しなくていいんだ。大丈夫だ。僕が上手くいくように リードするから。とりあえずは目を閉じてキスから…。』


 ガタリと、隣室から椅子を床に引きずった音がした。
 人が動く気配がする。しまった。妄想に夢中になって、会話をすっかり聞き損ねたではないか!。
「ありがとう。ジューダス。へへ。やっぱ俺、ジューダスのこと大好きだな。」
「役に立てたのなら良かった。」
 お子様め。臆面もなく、また『好き』攻撃か。しかもこれが結構ジューダスには効果的だからあなどれないのだ。
「ああ、なんか俺、ジューダスに、話を聞いてもらったらすっきりしちゃった。そうだ。ジューダス!、一緒に風呂、入ろうよ。」
「風呂?。」
 風呂だと〜〜〜〜〜??!!。
「うん。背中、流してあげるよ。いいだろ。たまには。」 
 くおら、ちょっとまて!。
 つまり、先ほどの情熱的な告白(ロニの妄想)の続きを風呂場でやろうと。
 いかん。絶対いかん。
 ジューダスは冷めているようで結構情に脆いのだ。それに何故か知らんが、カイルには特に甘いような気がする。いや、はっきり言って特別扱いだ。そんなの を二人きりにしてみろ。カイルは男なんだぞ。男は狼だろうがよジューダス。その非常識に色っぽい裸体なんぞを晒した日にゃあ、カイルのあれが凶暴なナ ニに変わるのは分かりきっていることだろうがよ〜〜〜。
 そう思うや否や、ロニは部屋から飛び出していた。ロニは勢い良く廊下に出、隣室のドアノブに手をかけた。
 深夜なので当然ながら内鍵がかけられていて、ガチャリとまわすドアノブは侵入者を拒んだ。
 しかしロニはそんなものを、ものともせず、その恐ろしい握力で破壊した。
「くおら!、カイルー!!。」
「わ、ロニ?!。」
 部屋ではカイルとジューダスが大きめタオルを持って浴室に行くところだった。
 間一髪セーフというところか。
「お前〜〜!、お前にはリアラという可愛い彼女がありながら、夜中にこそこそとこんな仮面ストーカーといいことしやがって!。」
「え、ええ?。」
「ガキのくせに二股なんてぜーたくなんだよ!。カイル〜〜!。いいか、カイル!、男は誠実さだ。たった一人にかける情熱だ。お前、いい男になるって言った な!。今からそんなんじゃ、絶対将来ロクな男になれないんだぞ!。」
 恋は盲目、とはよく言ったもので、ロニは普段ならカワイイ弟分のカイルに対して絶対吐かないよーな、…宣戦布告(?)とも取れるセリフをひとしきり叫ん だあと、やっぱり最近色々上手くいかない鬱憤の末の、どーにでもなれ、と言ったやけっぱちな感じもあって、暴れてやった。
 若い男どものふざけ合い、にしては少々過激に、そして何やら異様で怪しい盛り上がりで室内は騒然となったが、態勢を整えたジューダス指示によるカイルと の連携に よって、事態は沈静化した。
 二人分の風呂道具と部屋の備品がめちゃくちゃに転がった室内で、男三人、座り込む。 
 つまりはこうだ。カイルはジューダスに、リアラのことを相談していたのだ。
 もう時間もないし、このままの状態で旅を続行してしまうのも、やはり色々良くないであろうと、そんなことを相談していたと。
「おい。カイル!、そういうことだったら何で俺に真っ先に相談しねえんだ!。この愛の伝道師ロニ様に。」
「えー、だって、ロニに相談すると、絶対はちゃめちゃになっちゃうじゃんか。」
 ロニは、う、っと言葉を失い、頭を抱えた。
「…色々、カンチガイしてるとこもあるんだろうし。」
「わ、判った。判ったからもうやめろ。」
「ホントに判ったの〜?。」
「…やめろって。」
 まだぶつぶつと何か言いたげなカイルであったが、傍らのジューダスが興味なさそうに視線を逸らし出したので、カイルの追求も曖昧に収束しそうだった。
「もう、何だかワケ分からないなぁ。でもいいや。ジューダスッ!。今日はありがと。じゃ、俺はやっぱ自分の部屋で寝るから。」
 そう言ってカイルは、ぱたぱたと自分の部屋に戻っていった。

 ドアノブの破壊された部屋に、ロニとジューダスが取り残された。
 賑やかなカイルが去って行ってしまった部屋は妙な静けさに包まれていた。いや、この静けさはそれ以前の問題なのだが。
「……。」
「…まったく、いい歳をして。」
 心底あきれたようにジューダスが言う。その冷ややかな視線が何よりもツライです。
「う。…なんか俺、勘違いしてたみたいだ。暴走しちまったぜ。我ながらみっともないぜ…。」
 名誉を挽回するどころか今回で徹底的に嫌われそうだ。ロニは大きな体をこれでもか、というくらいに小さくしてしょぼんと俯いた。
「まったくだな。お前の頭の中は『それ』しかないと見える。旅を始めてからというもの、女と見れば、誰彼見境ナシに口説きまくって、最近やっと大人しく なってきたと思ってたら、何食わぬ顔で強姦までやってのけるのだからな。猿以下のケダモノだな。」
 反論、一言もありません。
「…すまん。けど俺、お前のこと考えると、もう見境なくなっちまう。…お前自覚ないのかもしれないけど、すんげえ色気あるの。男としてほっとけねえよ。そ れにお前だってさ、あんなことがあったのに、部屋、同室になるの嫌がらねえし、…傍らに凶器置くくせに、カウチで無防備に寝そべるし…。」
 ロニの声はアンニュイなどという、のん気な段階はとうに通り越して語尾の方はボソボソとかすれ気味だった。
「僕のせいにするのか。」
「だから、あんまり挑発するな、って言ってるの。」
 ロニの返事はこれだけだった。
 そしてまたぐったりと俯いてしまった。その、失恋に打ちひしがれた男よろしく肩をがっくりと落と した情けない姿にジューダスは大きなため息をついた。
「…まったく、ああいうものには、順序があるということ考えろ。少しはカイルを見習ったらどうだ。」
 そう言うと、ジューダスは、荒れ果てた部屋を片付けるべく、ぱっと立ち上がった。
 …順序。
 ああいうものに順序。
 それって。
「ジューダス。それって!、どういう意味だ。」
 追いすがるロニにホウキが投げてよこされた。 
「知るか馬鹿。少しは自分で考えろ。」
 相変わらず言葉はキツく、愛想のかけらもない。
 そう思いながらも、テキパキと部屋を片付け始めたジューダスの姿にロニは、天から射し込む一条の希望の光を見つけた求道者よろしくじ〜んと幸せを感じる のだった。











2004 0307  RUI TSUKADA


 
砂吐きギャグです。
 けど、こーゆーの書けるのはやっぱロニジュならではだよ。これでも両思いなんだよ。
 カイルでもこの路線はいけそうだけど、すこーしエッチな色気が足りないかな!。

 おそろしいことに続編あります。そのうちまた!。