『君主論(その2A)』



 


君主論に曰く。
君主が金を使うとき、自分の金や自国の領民のものを使う場合と、
あかの他人のものを使う場合とがある。
 自分のものを使うときには、極めて倹約につとめるべきであり、
 他人のものを使うときには、大盤振る舞いをする機会を少しも逃してはならない。


 一見して随分庶民的?なことを言ってるな、という印象を受けるが、
これは政治や経営を行う場合の鉄則であり、基本中の基本なのである!。

 例えば、会社経営の場合を例に挙げて考えてみよう。
買収等で子会社化した他会社(すなわち戦いの敗者)に対しては、それまでその会社で権力を
握っていた重役達を左遷で一掃し、自社の社員たち(特に勲功のあった者)に
その重要なポストを割り当てる。
 すなわち支配下においた他人の資産を処分したり、使いこんだりする際には、
思い切り良く、大盤振る舞いするのが是とされ、
このようなことは、昨今のビジネス界で常識的に行われている。

 ビュエルバは中立国というあいまいな立場をとりつつも独立を維持している。
 これは、アルケイディア帝国が、この国を侵略併合せずに残しているからである。

 だが、その後において、豊かな魔石資源の採掘権が、アルケイディア帝国にあることから
容易にわかるように、この国は、実際は、かなり帝国の支配下に置かれているのである。

 ヴェイン様は、ビュエルバに先の戦乱の調停役という花をもたせ、
ビュエルバの主権を残し尊厳を立てた。
 そしてその一方においては、その魔石採掘権を確保し、その雇用や数々のポストを
気前良くビュエルバの民に分配しながら、自国の帝国兵に警備させて、治安を高め
民の安全を守り、ビュエルバを豊かにすることにも成功した。

 帝国は、彼らの資産を合法的に使いつつ、たくさんの金を落とし、
雇用を確保してあげることによってビュエルバの民にも感謝されるようになる。

 すなわち、他人のものを大いに使いまくりながら、利益と名声を両得することに成功しているのだ。

 対してビュエルバ元首・オンドールは、君主として極めてうかつである。
 帝国のふんだんな金で国の財源が潤うのまではいいが、所詮、有限の資産を切り売りして
いるのだから、やがて資産は尽きる。
 帝国が早々にヘネ鉱を開発していることからもわかるように、
ビュエルバの魔石が枯渇するのは、かなり近い未来に起こりうる現実なのだ。

 すなわち、一見して豊かな国の様子から窺われるオンドールの、政治に対するあまりにも鷹揚な、
或る意味、その場しのぎの姿勢によって、最終的には自国の首を絞め、
貧困を招きよせることになるのは時間の問題なのである。

 そしてそのときの民の恨みは、目先の利益しか追わず、あきらかに長期的視点における
采配を誤った元首、魔石の所有者であるオンドール侯爵に向けられることになるのである。